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#14ー2
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で、そろそろ本題に移ろう。
その日の私は、どういうわけかずいぶん早い時間に自分の部屋に上がってベッドに潜り込んだ。それが大体午後九時くらいだったはず。いつもは十時くらいだからものすごく早い。今時小学生でもこんな時間に布団に入らないだろう。
感覚的には、その日の夜はなかなか寝つけなかった。ベッドの中で目をつぶってはトイレに起きて、それが終わってベッドに戻ってすぐにトイレに入る、を繰り返していた。
気がつくとそんな過ごし方で夜中の十二時になろうとしていた。自分の部屋の中はもちろん、両親の寝室(この日パパは夜勤だったからママしかいない)を含めた一階も電気が切られている。
私はしまいには寝ることそのものを諦めた。出入り口のドアに背中を向ける形で置かれた勉強机のライトをつけると、椅子に座って薄緑色をした表紙の大学ノートを机の上に広げた。前にも説明した、和製切り裂きジャックに関する新聞やネット記事のスクラップブックだ。黒と灰色とわずかに残ったノートの白が九割を占め、残りの一割は新聞のカラー写真とオレンジっぽい色で私があれこれ個人的な推理を書き込んだだけのノート。ベッドの隅にぬいぐるみがないどころか、面倒くさがってカーペットも敷いていない、私の部屋の中みたいに地味なノートだった。
そんな人様に見せられるような代物じゃないノート(和製切り裂きジャックを美化するようなことも書いてあるから普通の人に見せるとたぶん怒られる)を、私は手元以外真っ暗な部屋の中で読んでいた。今まで何十回と読み続け、一部分は暗記もしているノートだった。この殺人鬼が今までどのような犯行を繰り返してきたか。それに対して遺族や警察、近隣住民はどんな反応をしてきたか。凶悪な犯人に対して『許せませんね』みたいな薄っぺらい言葉しか言えない知識人のコラムはどうだったか。歴史に大きく名を刻むことになりそうなこの事件に関する詳細な情報が、一月の初犯から最後の事件まで余すことなく書かれているノートだった。数十年後にどこかの誰かが見つけたらそれなりの価値がつくのではないかというような、自分でもよくできていると思っている一冊だ。私はそのノートを食い入るように読みふけっていた。
だから後ろから近づいてくる人の足音にも気づかなかったのかもしれない。
突然私の首の後ろに紐が巻かれ、勢いよく私の首を絞めつけてきたのだ。
訳がわからなかった。私は読んでいたノートを投げ出し、両手を首にあてがって抵抗する。縄の繊維が皮膚に食い込んで痛い。どれだけ口を多く開けても息が吸えなくて苦しい。もっと気の利いたことを書いてやりたいのはやまやまだが、この時の私の心情をリアルに表現しようとすると、これくらい単純な言い回しがふさわしかった。それだけこの時の私は焦りまくっていたというわけだ。突然誰かに殺される恐怖で頭が混乱しているのだから、その様子を事細かに書き記すほうが不自然と言うべきだ。
そのうちに脳天のほうがスーッとしてくる。長いこと水の中に潜った後で浮上して呼吸
その日の私は、どういうわけかずいぶん早い時間に自分の部屋に上がってベッドに潜り込んだ。それが大体午後九時くらいだったはず。いつもは十時くらいだからものすごく早い。今時小学生でもこんな時間に布団に入らないだろう。
感覚的には、その日の夜はなかなか寝つけなかった。ベッドの中で目をつぶってはトイレに起きて、それが終わってベッドに戻ってすぐにトイレに入る、を繰り返していた。
気がつくとそんな過ごし方で夜中の十二時になろうとしていた。自分の部屋の中はもちろん、両親の寝室(この日パパは夜勤だったからママしかいない)を含めた一階も電気が切られている。
私はしまいには寝ることそのものを諦めた。出入り口のドアに背中を向ける形で置かれた勉強机のライトをつけると、椅子に座って薄緑色をした表紙の大学ノートを机の上に広げた。前にも説明した、和製切り裂きジャックに関する新聞やネット記事のスクラップブックだ。黒と灰色とわずかに残ったノートの白が九割を占め、残りの一割は新聞のカラー写真とオレンジっぽい色で私があれこれ個人的な推理を書き込んだだけのノート。ベッドの隅にぬいぐるみがないどころか、面倒くさがってカーペットも敷いていない、私の部屋の中みたいに地味なノートだった。
そんな人様に見せられるような代物じゃないノート(和製切り裂きジャックを美化するようなことも書いてあるから普通の人に見せるとたぶん怒られる)を、私は手元以外真っ暗な部屋の中で読んでいた。今まで何十回と読み続け、一部分は暗記もしているノートだった。この殺人鬼が今までどのような犯行を繰り返してきたか。それに対して遺族や警察、近隣住民はどんな反応をしてきたか。凶悪な犯人に対して『許せませんね』みたいな薄っぺらい言葉しか言えない知識人のコラムはどうだったか。歴史に大きく名を刻むことになりそうなこの事件に関する詳細な情報が、一月の初犯から最後の事件まで余すことなく書かれているノートだった。数十年後にどこかの誰かが見つけたらそれなりの価値がつくのではないかというような、自分でもよくできていると思っている一冊だ。私はそのノートを食い入るように読みふけっていた。
だから後ろから近づいてくる人の足音にも気づかなかったのかもしれない。
突然私の首の後ろに紐が巻かれ、勢いよく私の首を絞めつけてきたのだ。
訳がわからなかった。私は読んでいたノートを投げ出し、両手を首にあてがって抵抗する。縄の繊維が皮膚に食い込んで痛い。どれだけ口を多く開けても息が吸えなくて苦しい。もっと気の利いたことを書いてやりたいのはやまやまだが、この時の私の心情をリアルに表現しようとすると、これくらい単純な言い回しがふさわしかった。それだけこの時の私は焦りまくっていたというわけだ。突然誰かに殺される恐怖で頭が混乱しているのだから、その様子を事細かに書き記すほうが不自然と言うべきだ。
そのうちに脳天のほうがスーッとしてくる。長いこと水の中に潜った後で浮上して呼吸
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