和製切り裂きジャック

九十九光

文字の大きさ
83 / 166

#15ー1

しおりを挟む
#15(三人称)


 三月も下旬になると、千種区、名東区以外の学校でも、新学期からの通学に保護者同伴を義務づけることを検討し始めるようになり、俗に言う便利屋には、近くのコンビニでの買い物につき合ってほしいという依頼がやってくるようになっていた。ブザーをはじめとした防犯グッズは飛ぶように売れ、子供向けの商品はどこもかしこも品薄となった。捜査に関わっていた刑事の一人が謹慎処分を受け、その同日に起きた妹の死から行方不明になったというニュースは、関係者以外誰も気に留めなくなっていた。
 和製切り裂きジャックはいまだ捕まっていなかった。
 愛知県警の捜査一課は三月下旬まで、和製切り裂きジャックは橋本兄妹に近しい人物ではないかと考え、該当する人々のアリバイの確認を行った。だが調べれば調べるほど、二人の知り合いには揃ってアリバイがあることが判明する。会社で事務作業をしていたとか、西区の小学校のろうあ者認知の講習会の帰りで地下鉄に乗っていたとか、捜査官がその時刻に一緒に仕事をしていたとか、いずれも疑いようのないものだった。五件目の事件でアリバイが立証できない人物たちも、ほかの事件でのアリバイが証明された。同一犯でないという線も、声明文の筆跡鑑定結果の一致から考えられなかった。
 五件目の楓の事件も含め、いくつかの事件の現場周辺で、白い軽トラックが殺害時刻前後に近隣住民によって目撃されていたが、ナンバーを確認できた目撃者はいなかった。そして、名古屋市、および名東区と隣接する長久手市で登録されているすべての軽トラックを調べる力も捜査一課にはなかった。こういった捜査にはほかの部署との連携が不可欠であり、それを指揮できる人間が疲弊した一課の中にいなかったのだ。白い軽トラックは和製切り裂きジャックの犯人像で間違いなかったが、それ以上の発展は望めなかった。
 ネット上では、『和製切り裂きジャックを港区で見た』『自分が和製切り裂きジャックだ』などの書き込みが、掲示板サイトやSNSを中心に多発した。だが県警は一般人から通報されない限り、これらの書き込みを一切相手にしなかった。あの知的な犯人が表層ウェブ上で正体を明かすわけがないという考えのほか、ほかの部署との連携という難しい捜査に一課全体の敗北感が絡んだ、軽トラックと同じ理由からだった。実際に時間をかけて調べたケースも、すべて市外、県外の人間によるいたずらの書き込みだった。
 こういった事件と関係のない人によるいい加減な詮索は、時には極端に捜査に支障をきたし、現場周辺の住人たちを混乱させるだけに終わり、犯人逮捕のきっかけには決してならなかった。事件と無関係の人々からすれば、この殺人鬼は単なる暇つぶしのための話題提供者でしかなかったのだ。
 話はこれで終わらない。和製切り裂きジャックは名古屋市の経済にも影響を与えていた。
 名東区や千種区に引っ越そうとしていた人々が、事件を理由に引っ越しを中止するよう
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...