和製切り裂きジャック

九十九光

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#15ー1

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#15(三人称)


 三月も下旬になると、千種区、名東区以外の学校でも、新学期からの通学に保護者同伴を義務づけることを検討し始めるようになり、俗に言う便利屋には、近くのコンビニでの買い物につき合ってほしいという依頼がやってくるようになっていた。ブザーをはじめとした防犯グッズは飛ぶように売れ、子供向けの商品はどこもかしこも品薄となった。捜査に関わっていた刑事の一人が謹慎処分を受け、その同日に起きた妹の死から行方不明になったというニュースは、関係者以外誰も気に留めなくなっていた。
 和製切り裂きジャックはいまだ捕まっていなかった。
 愛知県警の捜査一課は三月下旬まで、和製切り裂きジャックは橋本兄妹に近しい人物ではないかと考え、該当する人々のアリバイの確認を行った。だが調べれば調べるほど、二人の知り合いには揃ってアリバイがあることが判明する。会社で事務作業をしていたとか、西区の小学校のろうあ者認知の講習会の帰りで地下鉄に乗っていたとか、捜査官がその時刻に一緒に仕事をしていたとか、いずれも疑いようのないものだった。五件目の事件でアリバイが立証できない人物たちも、ほかの事件でのアリバイが証明された。同一犯でないという線も、声明文の筆跡鑑定結果の一致から考えられなかった。
 五件目の楓の事件も含め、いくつかの事件の現場周辺で、白い軽トラックが殺害時刻前後に近隣住民によって目撃されていたが、ナンバーを確認できた目撃者はいなかった。そして、名古屋市、および名東区と隣接する長久手市で登録されているすべての軽トラックを調べる力も捜査一課にはなかった。こういった捜査にはほかの部署との連携が不可欠であり、それを指揮できる人間が疲弊した一課の中にいなかったのだ。白い軽トラックは和製切り裂きジャックの犯人像で間違いなかったが、それ以上の発展は望めなかった。
 ネット上では、『和製切り裂きジャックを港区で見た』『自分が和製切り裂きジャックだ』などの書き込みが、掲示板サイトやSNSを中心に多発した。だが県警は一般人から通報されない限り、これらの書き込みを一切相手にしなかった。あの知的な犯人が表層ウェブ上で正体を明かすわけがないという考えのほか、ほかの部署との連携という難しい捜査に一課全体の敗北感が絡んだ、軽トラックと同じ理由からだった。実際に時間をかけて調べたケースも、すべて市外、県外の人間によるいたずらの書き込みだった。
 こういった事件と関係のない人によるいい加減な詮索は、時には極端に捜査に支障をきたし、現場周辺の住人たちを混乱させるだけに終わり、犯人逮捕のきっかけには決してならなかった。事件と無関係の人々からすれば、この殺人鬼は単なる暇つぶしのための話題提供者でしかなかったのだ。
 話はこれで終わらない。和製切り裂きジャックは名古屋市の経済にも影響を与えていた。
 名東区や千種区に引っ越そうとしていた人々が、事件を理由に引っ越しを中止するよう
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