和製切り裂きジャック

九十九光

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#15ー2

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になったのだ。せっかく建てたマイホームを土地ごと売り払うというケースもあり、建築業や不動産業は想像だにしなかった二次災害を被った。県外の人々は名古屋市に行くこと自体を拒絶するようになり、名古屋に行くバスツアーはキャンセル続出で中止になることもあった。これにより、元々観光に不向きと言われてきたこの街の観光業とそれに付随する事業は、甚大な被害を受けることになった。
 その結果、和製切り裂きジャックは三月の中頃には、名古屋の汚点と呼ぶにふさわしい存在になっていった。何人もの人々を無差別に殺して回り、その余波で市全体の活性化を阻害していると、多くの知識人が名古屋のローカルテレビ番組上で口にする。するとそれに触発された一部の市民は、和製切り裂きジャックを純粋悪として怒りの対象にした。夜間の住宅街の見回りを積極的に行おうという風潮が、問題の区を超えて名古屋市全体に広がっていき、警察よりずっと精力的な活動を行っていた。
 こうして県警は、軽トラ乗りという情報以外、和製切り裂きジャックの正体をつかめないまま、四月三日を迎えようとしていた。
 その日の早朝五時半。湯浅は通勤のために基幹バスに乗っていた。バスの中にはほかにも何人かのスーツ姿の人間が乗っているが、大半が捜査一課の職員たちだった。乗客の半数以上が立って乗るほどの乗車率だが、車内には運転手のアナウンスとバスの録音音声、車外から聞こえる雑音しか響いていなかった。
 湯浅は眠かった。五日ぶりに自宅に帰ることができたが、家の玄関をくぐってからの記憶がなくなっていた。五十代の体から疲れが抜けていないのだと、彼自身理解していた。周囲の同僚たちも、おそらく自分と同じ気分だと察することができる表情をしていた。
 橋本の行方はいまだに分からならなかった。湯浅は例のアパートの大家と連絡を取り合っているのだが、その度に「帰ってきてませんね」か「今自分私用で広島に出かけててすぐには……」と言われるだけで、橋本の行方は誰にも分からなかった。ただ湯浅は、一刑事の給料で妹の世話をしていた橋本に、一か月も海外に逃げられる金があるとは想像できなかった。橋本は日本のどこかにいることは分かるのだが、その生死は分からない。恋人の様に大切にしていた妹を殺され、頼る身内もいないとなると、自殺の道を選んでいてもおかしくなかった。
 そのうちバスは名古屋市役所前に到着し、湯浅を含めた大量の乗客をそこで降ろした。そして全員がうつろな表情で、歩いて七分ほどの県警本部の中に吸い込まれていく。全員が息を合わせずにうなり声をあげていれば、完全にホラー映画のゾンビの群れだった。
「おはよう、湯浅君」
 湯浅の後ろから山下が声をかけてきた。無理矢理口角を上げて作った笑顔は、湯浅にはかえって痛々しく見えた。
 湯浅も軽く挨拶を返し、とりあえずの社交辞令を済ませる。しかし一歩ビルの中に入るとそれ以上の会話は続かなかった。周囲の後輩たちも同様だった。いつもの湯浅なら、「先
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