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#19‐13
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これが和製切り裂きジャックの正体であり、橋本が四月に入ってから打ち立てた考察が的外れに終わった理由だった。
ネットを持つのが当たり前と言われる前の時代から引きこもりをして、壊れた電化製品を買い直せないほど貧しい家で育った鈴木が、掲示板サイトに書き込みをすることは絶対にありえなかった。犯行に使った軽トラックも、死亡届を出さなかった父親の名義の車両であり、一人暮らしをターゲットにしたあのふるいのかけ方では網の目をすり抜けてしまう。隣の家の家族構成も記憶しようとしない現代日本で、彼の家の近隣住民が夜間に定期的に外出する車を見て通報しなかったのも、事件解決が遅れる原因と言えた。さらに、聴取の担当者は鈴木に、橋本兄妹との面識の有無を質問した。これに対して鈴木は、「ない。適当なアパートの一階の部屋に適当に入っただけで、あの日初めて会った。警察の人間だって知ったのは、家の中にあった制服姿の男と写ってる写真を見たから」と答えたという。橋本と面識のある人間でもなかったわけだ。当然、部屋の盗聴器のことも楓のストーカーのことも、この男は何一つ知らなかった。楓の身辺に起こっていた数々の出来事は今回の殺人とは無関係であり、彼女は不幸にもまったく関係のない二人の犯罪者から同時に狙われただけだった。
橋本は、「中卒とか無職とか、すごくもなんともない人が犯人でもおかしくないと思ってるよ」と、昔誰かに和製切り裂きジャックに関する個人的な見解を言ったことを思い出した。あの時の幸せな自分が、「お前の一か月と二週間は無意味だったな」と、今の自分を蔑んでいるように思えてきた。
三月の頭に謹慎処分を出され、同じ日に妹の楓を失った彼は、謹慎が解けるまでの一か月間、北陸や信州、近畿地方などを車に乗って転々としていた。気がつけば三重県の海岸沿いの崖の上に立ち、また気がつけば長野の山奥にいたということを、彼は幾度となく繰り返していた。謹慎期間中の橋本は自殺願望と戦っていた。
彼にとって楓は、自分の人生のすべてだった。彼女のことを思ったがために、楓のことを絶対受け入れるという確証のない周囲の大人や同級生たちへの信頼を捨て、楓を捨てた実の母親との縁を切ることを決意した。楓の生活をできるだけ幸せなものにし、かつ楓が自分の仕事のことで不安がることがないようにと、警察という仕事を選択し、そのために就職に有利だと聞いた法学部を選択した。進学後も、実家からの援助を完全に断ち切った彼は、普通の学生なら同級生との遊びに使うはずの時間をすべてアルバイトに使い、誰とも交友関係を持たなかった。そうした生活は橋本の中に、楓さえ幸せにできるのなら自分は周囲からどう思われようと構わないという考えを、彼自身も気づかないうちに作り上げていた。
そこまで大切にしていた楓がいなくなるということは、橋本にとっては生きる意味を失うことと同じだった。彼の心の中に住みついた、死にたいという意思は、いつもそれを理由に橋本の体を動かしていた。
ネットを持つのが当たり前と言われる前の時代から引きこもりをして、壊れた電化製品を買い直せないほど貧しい家で育った鈴木が、掲示板サイトに書き込みをすることは絶対にありえなかった。犯行に使った軽トラックも、死亡届を出さなかった父親の名義の車両であり、一人暮らしをターゲットにしたあのふるいのかけ方では網の目をすり抜けてしまう。隣の家の家族構成も記憶しようとしない現代日本で、彼の家の近隣住民が夜間に定期的に外出する車を見て通報しなかったのも、事件解決が遅れる原因と言えた。さらに、聴取の担当者は鈴木に、橋本兄妹との面識の有無を質問した。これに対して鈴木は、「ない。適当なアパートの一階の部屋に適当に入っただけで、あの日初めて会った。警察の人間だって知ったのは、家の中にあった制服姿の男と写ってる写真を見たから」と答えたという。橋本と面識のある人間でもなかったわけだ。当然、部屋の盗聴器のことも楓のストーカーのことも、この男は何一つ知らなかった。楓の身辺に起こっていた数々の出来事は今回の殺人とは無関係であり、彼女は不幸にもまったく関係のない二人の犯罪者から同時に狙われただけだった。
橋本は、「中卒とか無職とか、すごくもなんともない人が犯人でもおかしくないと思ってるよ」と、昔誰かに和製切り裂きジャックに関する個人的な見解を言ったことを思い出した。あの時の幸せな自分が、「お前の一か月と二週間は無意味だったな」と、今の自分を蔑んでいるように思えてきた。
三月の頭に謹慎処分を出され、同じ日に妹の楓を失った彼は、謹慎が解けるまでの一か月間、北陸や信州、近畿地方などを車に乗って転々としていた。気がつけば三重県の海岸沿いの崖の上に立ち、また気がつけば長野の山奥にいたということを、彼は幾度となく繰り返していた。謹慎期間中の橋本は自殺願望と戦っていた。
彼にとって楓は、自分の人生のすべてだった。彼女のことを思ったがために、楓のことを絶対受け入れるという確証のない周囲の大人や同級生たちへの信頼を捨て、楓を捨てた実の母親との縁を切ることを決意した。楓の生活をできるだけ幸せなものにし、かつ楓が自分の仕事のことで不安がることがないようにと、警察という仕事を選択し、そのために就職に有利だと聞いた法学部を選択した。進学後も、実家からの援助を完全に断ち切った彼は、普通の学生なら同級生との遊びに使うはずの時間をすべてアルバイトに使い、誰とも交友関係を持たなかった。そうした生活は橋本の中に、楓さえ幸せにできるのなら自分は周囲からどう思われようと構わないという考えを、彼自身も気づかないうちに作り上げていた。
そこまで大切にしていた楓がいなくなるということは、橋本にとっては生きる意味を失うことと同じだった。彼の心の中に住みついた、死にたいという意思は、いつもそれを理由に橋本の体を動かしていた。
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