和製切り裂きジャック

九十九光

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#21ー1

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#21(三人称)


 二〇一七年四月二十二日。
 各種書類の確認と作製、日々の外回り、怨恨を理由に起こった傷害事件などの解決と、中区にある愛知県警本部の捜査一課は、常日頃行っている業務をこなす、平常通りの忙しさを取り戻していた。
 和製切り裂きジャック事件の解決以降、それ以前から変化したことが、捜査一課にはいつくかあった。
 和製切り裂きジャック事件に関わった一課の若手たちの多くは、事件解決以前と比べて仕事の手際が良くなっていた。必要性を感じれば躊躇せずにほかの部署との連携が取れないか確認し、一つの事件に対する状況把握のスピードも段違いに早くなった。あれだけの難事件を解決したという経験は、彼らの自信と経験値につながっていた。
 そんな一課の様子を、古株の湯浅泰三警部補は、四月の昼下がりの日光を背中に受けながら、自分のデスクに座って眺めていた。眠いのかやる気がないのか温かく見守っているだけなのか、傍から見ただけでは理解に苦しむ表情をしていた。
「結局今日も来なかったか」
 そこに一課の警部で湯浅の同期である山下が、コーヒーの入ったカップを片手に持ちながら話しかける。
「あ……、ああ。そうだな」
 不意を突かれたと言いたげに小さく慌てた湯浅は、山下のほうに視線を向けた。
 山下は、湯浅が橋本のことを心配していることを、この短いやり取りだけですぐに予想できた。湯浅の部下で、和製切り裂きジャックに妹を殺された橋本は、四月十八日にいつも通り定時に県警本部を後にしたのを最後に、今日まで無断欠勤をしていた。
 橋本が仕事に熱を入れないタイプだったことは事実だが、無断で仕事を休むほど意欲のない人間でもなかった。それ以前に、橋本はあの事件で最愛の妹を失っている。その精神的な反動が今になってきているのではないかと、湯浅は数日前から山下に言っていた。
 これに対して山下は二日前に、「こういうのはそっとしてあげるのが一番だよ」と、諭すようなアドバイスをした。身近な人間を亡くしてしまった相手への接し方としては最も典型的な判断であり、八年前の湯浅の時も、この対応で問題なかったと彼は考えていた。
 湯浅は一度、自分が教育担当をしていた若手を仕事中に亡くしたことがあった。検問に突っ込んできた逃走車両と警察車両の間に挟まれ、体が床にたたきつけられたプラモデルのようにバラバラになって亡くなった。これ自体は日本の警察ではよくある殉職の一例だが、全国的には三万人に一人くらいの割合でしか起こらない現象だった。仮にそういった場面に立ち会っても、一生に一度くらいだというのが常識だった。
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