和製切り裂きジャック

九十九光

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#23ー6

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る判決を黙って待っている、最高裁に引っ張り出された容疑者のようだった。
 山下はその顔をしばらく黙って見つめ続けた後で、普段の口調を意識して最後の言葉を言い直す。
「……。今日はもう帰りなよ。最近ずっとここに缶詰めだろ。ちょっと休んできなよ」
 湯浅はその言葉を聞くと、力ない歩調で自分のデスクに戻り、荷物をまとめて部屋の出入り口に向かっていった。彼とすれ違った何人かは、彼が小さく「畜生」とつぶやいているのを耳にした。しばらくの間は、誰も何も言わず、その場からその時の体勢を崩すことができなかった。
「申し訳ありませんでした!」
 この言い争いのある種の原因になった若手刑事が最初に口を開き、山下に向かって腰を九十度に曲げた。
「いいんだ、別に。コーヒーありがとう」
 椅子に座った山下は、左手で額を押さえながら右手でカップを手元に寄せた。その若手も自分の席に戻ったのを確認すると、疲労感を感じながら左手でカップを手にし、右手でコーヒーのしみがついた新聞紙を手に取った。
 この日は二人目の和製切り裂きジャックに関する話題が一面を飾っていた。橋本が殺されたアパートの四階角部屋にブルーシートがかけられた写真が載り、ゴールデンウィーク中の名古屋の人気のなさが報じられていた。東京の街頭で行った、今名古屋に行ってみたいかという自作アンケートの結果が掲載されており、九割以上が行きたくないと答えたという結果が報じられていた。その理由も、いい観光スポットが思いつかないという答えより、殺人事件が怖いという回答が頭一つ抜けている始末だった。山下はその記事から目が離せなくなっていた。
 もっと正確に言えば、アパート四階の角部屋の写真から目が離せなくなっていた。その写真を見つめれば見つめるほど、山下の中に奇妙な違和感がやってきたのだ。
 頭の中で急速に一本のシナリオが浮かび上がろうとする。それは少しずつ水面に影を浮かべる魚のように輪郭が生まれ、辻褄がある程度一致する物語として水面下までやってきた。だがそれ以上のものになってくれない。マグロ漁でとどめの電気ショッカーが見つからないように、完全に辻褄が合うための最後のピースが見えてこなかった。だが山下の中で、いてもたってもいられないという衝動が押し寄せてきた。
「ちょっと現場に行ってくる。車一台使うよ」
 山下は必要最低限の手荷物を持つと、詳細を聞こうとするほかの捜査員の声を聞き流し、本部の建物地下にある警察車両の駐車場へと行ってしまった。
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