イレブン

九十九光

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♯2ー4

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「あなた、緊張しすぎよ。気持ちは分かるけど、教師のそういう反応ってのは、生徒はすぐに感じるのよ。もっと堂々と構えて、せめて自分の本心が分からないようにしなさい」

 きっと私のことを思って優しい言葉をかけて励ましてくれているのだろう。でも原因はあんただ。

 私が「はい、気をつけます」と言ったのを確認すると、「それと、職員会議が終わったらすぐに教室に行って様子を確認しなさい。既存の生徒たちが内田君にどんな反応するか分からないから」という捨てセリフを口にして、小林先生は自分の席に戻っていった。ここまで一分もかからなかっただろうが、与えていった精神的ダメージは相当なものだ。

「大変そうですね、樋口先生」

 すると今度は私の右側から、湯気の立つマグカップを二つ持つ新貝先生が話しかけてきた。トレードマークの坊主頭は三月末の時よりさらに短く剃り込まれ、天井の蛍光灯の明かりを反射しそうだった。

「先生、今絶対タイミング見計らって声かけましたよね」

 私は差し伸べられたマグカップの一つを受け取りながら、彼の顔を見上げていちゃもんをつける。

 この男も山田先生もそうだが、うちの学校の先生は小林先生から距離を置こうとする人が多すぎる。確かにあの高圧的な雰囲気を持っている人にあまり近づきたくない気持ちも分からなくはないが、あんたたちは私より人となじみやすい性格なのだから、個人的な好き嫌いを理由に同僚と距離を置くなと言ってやりたい(なんて自分勝手な理屈なのだろう)。

 こうして時間は過ぎ、八時の職員会議が始まった。

 週初め、および月初めということで、内容は今月の行事関連の大まかな確認が中心だった。離任式やPTA総会などである。そこまで同僚と親しくしていたわけではない私には、職場異動や退職でいなくなる先生とのお別れなんてそこまで悲しくない。面倒なのは、修学旅行の件で連絡事項があるPTA総会くらいである。ほかに気になった内容と言えば、堤教頭が最後に言った「皆さんご存知だとは思いますが、三年二組の内田平治君は、先月の震災の被災者であります。他学年の先生方にも、彼の精神的な傷を意識した言動をお願いしたいです」という言葉くらいだった。

 簡単に言わないほうがいいと思う。彼の心の傷は地震で家族を失ったことではなく、父親のあれをお尻の穴にいれられたことなのだから。

 そんな微妙に内容の薄い会議が終わった八時二十分。私は何かを持つこともしないでそ
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