イレブン

九十九光

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♯2ー5

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そくさと職員室を出て、三年二組の教室へと向かった。

 三年生の教室は、職員室と同じ階層である二階の東側に位置しており、突き当りの美術室から数えて四つの教室に分かれている。二組の教室は、美術室と一組の教室を挟んで隣り合う位置にあり、校舎東側の階段とトイレのちょうど目の前の場所にある。廊下側の窓は教室で体操服に着替えるためにすべてすりガラスになっており、廊下から室内の様子を確認するには、音を聞くか、窓、引き戸を開けないといけない。

 そしてこの日、すりガラスの向こう側からは、ざわつく生徒の声が聞こえていた。いつもの休み時間の時より若干騒がしいと感じたが、新しいクラス分けに一喜一憂しているのか、見知らぬ転校生の異様なリアクションで騒いでいるのかの見当はつかない。開けて中を確認しないといけない様子だった。

「はい、おはようございまーす」

 私はできるだけ自然な形を装って前の引き戸から教室内に入り、視線を一周させた。

 蛍光灯がつけられた室内には、(無断欠席なしなら)二十人以上の黒い学生服に黒っぽい髪の毛(一部例外あり)の生徒が、椅子に座るなり机に座るなり柱に寄りかかるなりして、一人の生徒に集中していた様子だった。一番廊下に近い座席の列、その後ろから二番目の席に座る、内田平治だった。この間と同じ見た目をしている彼の真横には一人の男子生徒がおり、状況から察するに、内田はその男子生徒から何か質問をされている最中だったらしい。

「なあ樋口ー! こいつなんなのー! さっきから色々聞いてるんだけど、くそ冷たいんだけどー!」

 内田を指さしながら私を呼び捨てにするのは、彼の横に立っていた湯本悠馬という男子生徒だった。見た目だけだとそこまで記憶に残らないのだが、何かイベント(内容の良し悪し問わず)があるといつもその中心近くにいる、この学年で一番しゃべる男子生徒である。

 そしてこの湯本の反応を見るに、おそらく内田は湯本からの質問を、以前の私の時のようにそっけなく返答したのだろう。既存の生徒は全員揃って引いているが、乱闘騒ぎになるようなことにはなっていないようだった。

「知ってるだろうけど、転入生。詳しい説明はあとでするから、みんな体育館行った。ほら(よその学校がどんな感じかは知らないが、東中では朝のホームルームの前に全校集会系の行事を行うことになっている)」

 教卓の前に出て生徒たちに指示を出すと、彼、彼女らは仲のいい者同士で塊になりながら廊下に出ていった。この中で行われている会話の内容を聞き取るのは至難の業だ。五つ六つ
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