イレブン

♯２ー６

くらいの話題を、誰一人声のボリュームを気にしないで行っているのだから当然である。だから自分に関係する校内放送も聞き逃すのだと言ってやりたい。

　そして改めて二組の生徒たちの顔を確認すると、このクラスにかなりの曲者が集まっていることが分かった。学校のトイレでタバコを吸っていたという伊達君彦、女版湯本悠馬こと品川萌（しながわ　もえ）、髪の毛が安物のモンブランのクリームみたいな色をしている石井空介（いしい　くうすけ）、夜の公園でＯＢの男子とセックスしていたという噂がある立川亜美、大半の女子からキモいと軽蔑されている伊藤正次（いとう　まさじ）、他学年の生徒からわざとらしく距離を置かれる今田ペドロ（ブラジル生まれの日系人）、前年度のＰＴＡ会長で学校有数のモンスターペアレントの娘である松田理穂、下校中に自販機のカップ酒を飲んでいた浜崎銀二、その他、成績、生活態度、孤立などの様々な問題を抱えている生徒がちらほら見えた。どうやら新学期前までに生徒の顔と名前と素行を必死に覚えた甲斐はあったようだ。

　三年生担当の先生の誰かが問題のある生徒をできるだけ同じクラスになるように裏で操作して、面倒な仕事を押しつけてきたのは明らかだった。そういうパワハラが学校によってはあると聞かされていたが、まさかうちの学校で起きるとは夢にも思わなかった。

「樋口先生。一つ聞きたいんですけど……」

　そう言って、一人の男子生徒が私の右側から声をかけてきた。私が振り向くと、比較的長身で短髪にしている、面長の顔をした原田亮太がいた。襟元のホックもちゃんとしており、二年生の時は年間通して学級委員をして、昨年度の後半からはテニス部の主将もしている、このクラスの数少ない優等生だ。

「……。あの転校生、なんか様子おかしくないですか？　一年の時に転校してきたペドロと違って、しゃべってくれるにはくれるんですけど、なんかわざと冷たく突き放してるって感じがして……」

　なんて気の利く生徒なのだろうか。こんなクラスの中での些細な出来事をわざわざ報告してくれて、しかもその異常性にも気づいているなんて。こんないい子を残してくれたパワハラの元凶に心の底から感謝したい。

　心の中で嬉し泣きしながら、私は原田に質問をした。

「聞くけど、湯本があの転入生に質問したんだよね？」

「はい」

「どんな内容だった？」