イレブン

九十九光

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♯2ー7

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「そうですね……。転校生なのかとか、家の場所どこだとか、部活どうすんのとか、どこから来たのかとか……。あとふざけて……、女の子と……、あれしたことある、とか」

 最後だけ言葉を濁して原田が答えた湯本の質問内容は、転入生に対してぶつける質問としては、いたって普通のものだ。最後の質問も、そういうことへの興味を包み隠さない思春期としては普通だ。だがどこから来たのかという質問はさすがにまずいだろう。誰の口からも震災や被災者という言葉が出てきていないから、その質問に答えてはいないことは察することはできるが。

「……。そう、ありがとう。詳しいことはあとで全体で話すね。もうすぐ始業式だから、早く体育館行きな」

 私がそう言うと、原田は「そうですか。分かりました」と言って軽く腰を曲げ、教室後ろの木製ロッカーから体育館シューズの袋を引っ張り出して廊下へと出ていった。私は教室内から人がいなくなるのを確認すると、教室前側の入り口にある、クリップで留めるタイプの名札をつけておく、厚紙製のボードを確認する。湯本や石井など、来ていることが確認できた生徒の名札が六つあるだけだった。

 そしてこの十分後。二階から延びる渡り廊下を通って別館に向かい、その二階にある体育館に、私はほかの先生たちと一緒にやってきた。

 ワックスが塗られた木の床の上では、各学年の生徒指導と主任が檄を飛ばし、生徒たちをクラスごと、男女一列の背の順に並ばせている。

 私たち担任教師たちは、体育館に合流すると同時に自分の担当するクラスの列に直行する。前後の生徒にちょっかいを出す生徒を叱ったり、雑談をする生徒を静かにさせたりと、ケーキに塗ったクリームのムラをならすような作業をするためだ。三年二組は品川を筆頭によくしゃべる生徒が多い分、この作業がやたらと時間がかかる。一度注意すると熱が冷めてくれるおかげで、叱ったそばからしゃべり始めるというエンドレスもぐら叩きにならないのが唯一の救いだ。

 こうして式の前の簡単な生徒指導が終わると、次に私たちは壁際に立って生徒の様子を監視する。その後も、ほかの先生と交代しながら体育座りをする生徒の間を縫うように歩き、引き続き生徒の悪ふざけを注意することになる。肝心の式そのものは、二、三年生の後方に鎮座する、この間入学式を終えたばかりの一年生が、「お前ら、静かになるまで何分かける気だ!」と、一年の学年主任にして美術教師の西川克己先生(簡潔に言えば男版小林先生)からの説教を受けたことが原因で、七分遅れで始まった。
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