イレブン

九十九光

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♯4ー1

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 ゴールデンウィーク明けの五月六日の金曜日。どうせ明日は土曜日なのだからいっそ休みにしてしまえばいいのにと思う、朝のホームルーム。

 三年二組の教室内では、落胆と疑問を同時にぶつける声が巻き起こった。『就学旅行 中止のお知らせ』と題された配布物が配られたからだ。

「えー、ということで、余震の危険性を考慮して、今度の修学旅行の中止が正式に決まりました。重要な話だから、保護者の方にも絶対に見せるようにしてください」

 私が教卓に立ってそう説明すると、案の定、納得いかない生徒たちから質問が飛んでくる。なんのリアクションもしていないのは、その被災地から来た内田平治だけだった。

「なんでうちらだけ中止なんですか! 聞いた話だと、西中は普通に修学旅行行くって言ってましたよ!」

 そう言ってきたのは、女版湯本こと品川萌だった。私は、少し手の込んだスーパーボールみたいな模様が入った丸い飾りがついた、校則違反の水色のゴムでツインテールにまとめている彼女に、「西中はそっちのほうには行かないんでしょ。行先知らないけど」と回答する。というかこいつは、市の反対側にある学校の情報をどうやって知ったのか。

「先生、延期とかじゃなくてホントに中止なんですか? 行先変えるとかもできないんですか?」

 そう質問してきたのは、母親同様赤っぽい縮れた髪の毛をした松田里穂だった。彼女には、「それも検討したんだけど、宮城県外でホテルの部屋を人数分確保するのはできないんだよ。そもそも君たちの入学した時に部屋を予約してるし。何より、旅行中にどれくらいの規模の余震が起きるか分からないってのが一番大きいんだ」と説明した。実際は君のお母さん
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