イレブン

九十九光

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♯4ー3

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があった。

 一組、三組、四組の生徒は大変静かに授業を受けてくれる。

 授業中や授業後に質問をするほど熱心な生徒はいないにしろ、私語で授業は中断しないし、寝落ちする生徒は一人か二人。私が黒板に書いた漢字のミスを優しく教えてくれるばかりか、それを五分も十分もいじるようなことも絶対にしない。机間巡視(授業中に机の間を歩いて生徒の様子を観察すること)中にスマホをこっそり使う奴もいない。どこかの誰かの陰謀で、学内でも問題を起こす、起きる原因になることが少ない生徒ばかりがこの三つのクラスに集まっているおかげで、この三クラスでの授業はとにかくスムーズだった。

 問題は私がクラス担任をしている二組だ。月、火、木曜日の一時間目と水曜日の四時間目に入っているこのクラスでの授業は、先ほどのいい点すべてと真逆のことが発生しているのだ。

 大体三回に一回の割合で湯本か品川の発言が理由で授業が十分ほど中断するレベルで教室が騒がしくなり、授業中に寝る奴は、石井、浜崎、桐林、今田、立川、伊達、その伊達と仲がいい熊本光也に、なぜか最近立川と校内でセックスしたという話が上がった山本博一と、枚挙にいとまがない。私が一度黒板の漢字を間違えて書いてしまうと、「何やってんだよ、樋口ー!」と、偶然起きていた石井あたりが声をあげ、そこに何人かが悪乗りして五分くらい授業が止まる。そしてこの日の時点で今年度は、品川からはスマホを、野球部に所属している丸刈り頭の中沢雄二からは週刊大衆の袋とじを取り上げた。ゴールデンウィーク前最後の授業では、「伊藤ってマジきもいよねー?」といった内容が書かれた、破かれたノートのページが女子の中で回されているのを見つけ、授業を中断して問いただしたところ、この手の陰口の常習犯としてブラックリストに載っている諸田南(もろた みなみ)という女子生徒が発生源だと分かった。そしてこれらの話は、すべて私が受け持つ時間で見つかった話だけである。報告があった社会以外の授業での事件や休み時間の話も説明すれば、それだけでじんましんが起きそうになる。五月六日の一時間目開始までの時点で、学校内でトラブルを起こさなかった、または巻き込まれなかった二組の生徒は、学級委員の原田と孫入、母親と打って変わって口数が少ない松田里穂に、ほかの問題児とは別の意味で問題児な内田平治だけだった。

 だがこれだけ問題を起こしても、二組は学級崩壊認定されないのだ。右に挙げた問題児たちのうち、進学が危ういレベルで勉強ができないのは、石井と浜崎と今田だけで、ほかは適正なレベルの高校なら必ず進学できる生徒ばかりなのである。小学校一年生の時から苦楽
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