イレブン

九十九光

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♯5ー11

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ある内田の点数を指さしながらこう言った。

「その内田なんですけどね。今回の社会科のテストは九十五点で、今のところ学年一位なんですよ」

 これに対して小林先生は、「え? そうなの?」と、少しだけ声を大きくして画面をのぞき込んだ。

 今回の社会のテストは、採点が終わっている三クラスのうち、三組と四組は平均点が七十点を少し超えるくらいだった。この二つのクラスで出た最高点が、三組が八十七点、四組が八十二点だということも考えれば、少なくとも社会では、内田平治がよく勉強ができる子だということは一目瞭然だった。

 当初私は、彼の学力にはさほど大きな期待をしていたわけではなかった。いじめや虐待を受けた子供は精神的なストレスなどが理由で学力や判断力が落ちることがあるという話を、大学時代に聞かされていたからだ。だからこそ今回の結果は、私自身驚いているところがあった。勉強だけは意地でも負けたくないというプライドのおかげなのか、かつての環境から解放され、あの程度のいじめでは何も感じなくなったのか。

 ちなみに二組の社会の平均点は61.3点。石井、今田、浜崎などの常習犯が不真面目に取り組んで三十点前後を取り、松田をはじめとした一部の生徒が調子を出せなかったせいで四十点台だったことが原因だ。

「へえ……。やっぱ内田君って、勉強はほかの子以上にできるんですね……」

 私たち二人が内田の成績で少し盛り上がっているところに、私の右隣から三島先生が声をかけてきた。三組の名簿表と英語の教科書を胸のところで抱いている状態だ。

「三島先生。もしかして内田って、英語の成績もよかったんですか?」

 私がパソコンから目を離して先生の顔を見上げると、彼女は「はい」と言いながら首を縦に一回振り、こう続けた。

「今回のテストで九十点超えたの、内田君だけだったんですよ。ほかの子は高くても七十点台後半くらいで、三組の子みんなが難しすぎるって言ってたのに」

 こっちはやけに内田と二位の生徒の差が開いているな。

 そう感じた私は思い出したように、さっき三組で見つけた英語の解答解説の用紙を広げてみた。だが英語の授業内容をまったく把握していないと、どこが難しかったのかがまるで分からなかった。

「これです。それの裏面の問六です」
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