イレブン

九十九光

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♯5ー12

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 三島先生は私が解説用紙を持っていることに疑問を抱かず、問題の部分を教えてくれた。

 問六の内容は、十行弱の長い英文を読んで答える文章問題だった。横についている日本語訳を確認すると、杉原千畝の命のビザ発行に関する話だということが分かった。

 なるほど、ただでさえ日常生活ではなじみのない英語という科目に加え、中学の日本史では一切出てこない人の話をされたら、読む気がなくなって点を落とすのも無理はない。ついでにうちのクラスの惨状が脳裏をよぎった。

「確かに教科書にも問題集にも載ってない、私が全部自作した問題でしたけど……。そんなに難しいでしょうか。ちゃんと今回の範囲の単語と文法で解けるようにしましたし」

 いや、そんなこと言われても判断つかないよ。私は社会だし、小林先生は体育だし。

 私が内心諦めて匙を投げると、小林先生は私を挟んで三島先生の顔を見てこう言った。

「教材に載ってないって時点で、難問扱いされるのは無理ないわよ。応用問題で教材にない文章題を出すって告知した?」

「ああ、してませんでした」

「それじゃあダメよ。中学生はそこまで意識して勉強してこないから」

 実技科目の先生なのに、基本科目のペーパーテストにも的確にアドバイスできるのかと、私は二人の間に挟まれながら、感心して小林先生の話を聞いていた。

 にしても佐藤先生といい三島先生といい、今回のテストはやたらと歴史が扱われたものだ。いずれもメインの問題を作るためのネタという扱いでよくある話と言えばそこまでだった。だがついこの間、佐藤先生と三島先生が二人で食事に出かけたことを思い出すと、どうしても単なる偶然だとは思えなくなる。なんだが私が担当する年頃の生徒みたいな妄想で失礼だが、二人が何か示し合わせて今回の問題を作ったのではないのかという妄想が頭の中で膨らんでくる。

「樋口先生! いますか!」

 その次の瞬間だった。室内をつんざくような声とともに、松田里穂が東側の引き戸を開けて飛び込んできた。

 このデジャブを感じる光景に、私と小林先生は思わず身構えた。ほかの先生たちも、約一週間前に見たものとほぼ同じ光景の再現に自分の作業を止める。十数人ほどの職員しかいない室内に、氷でしめられたような寒気が走った。

 松田もこの空気感を感じ取ったように一旦黙ると、事の次第を説明した。

「空介と内田君がまた……!」
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