イレブン

九十九光

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♯5ー13

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 ほとんど説明になっていなかったが、何が起こったかを把握するには充分だった。

「またか……」

 小林先生の口から力ないセリフがこぼれた。怒りより先に、あきれと疲れのほうが表に出た形だった。私も同じ気持ちだが、そればかり言っているわけにもいかない。

「とりあえず行きましょう」

 私は何かを持つこともしないで席を立つと、涙目になっている松田を少し乱暴に押しのけて職員室を出ていった。今は三時間目なので、二組は新貝先生の理科の授業である。

「いい加減にしろよ、空介!」

 この新貝先生の怒鳴り声は、廊下に出た瞬間に私たちの耳に入ってきた。小林先生と比べれば頻度こそ低いものの、新貝先生は怒鳴ることのある教員だった。時期も時期なだけに、これ自体はさほど驚くようなことではない。

 私たちが二組の教室の前にやってくると、松田が開け放ったらしい引き戸がそのままになっていた。そこから中を覗き込むと、内田含めて大半の生徒が自分の席に座る中、石井と新貝先生だけが、その内田の席の横に立ってにらみ合っていた。内田は学ランを脱いで白いワイシャツ姿になっており、脱がれた学ランは新貝先生によって襟をつかまれていた。黒い生地がうっすらと白くなっているのが遠めに見ても分かる。

「先生、ちょっと話聞いてきて」

 小林先生が肘で小突いてくる。職務上の力試しのつもりなのか、それとも面倒な仕事を押しつけただけなのか。

 彼女の本心を理解する間もなく、私は恐る恐る教室の中に入っていった。同時に廊下側の前の席に座る、立川や品川などの女子が気づいてこっちを見てきた。いずれも、「これどうする?」と言いたげな眼差しだ。湯本や浜崎も同様に視線を向けているが、彼女らほどの緊張感は感じられない。

 とりあえず私は新貝先生に向かって声をかける。

「あの……。新貝」

「どうしてこうもくだらないことばかりするんだ! こういうのが悪いことだってことはお前が一番理解してるだろ!」

「新貝先生」

「こいつがいつまで経っても学校やめないからだよ」

「新貝」
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