イレブン

九十九光

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♯5ー14

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「なんだその話! そんなに内田に学校来てほしくないのか! どうしてそんなに内田を嫌うんだ! 同じクラスの仲間をどうしてそんなに嫌うんだ!」

 これはダメだ。石井も新貝先生も私のことなんか眼中にないらしく、お互いに自分の意見をぶつけ合うのに必死だ。

 二人から話を聞くのを諦めた私は、前側の座席に座っている立川と品川に視線を向ける。黒髪を普段通りの髪形にしているこの二人の女子生徒は、すでに私から視線を外して石井と新貝先生に視線を戻していた。表情は目に見えてこわばっており、内田を巡ったこの手の事件にまだ慣れていないことを伝えてきた。

「品川、立川。ちょっといい?」

 私は新貝先生の邪魔にならない程度の声量で二人に話しかける。彼女らは無言で私の顔に、再び視線を戻した。

「今度は何があったの?」

 これに対して、品川が私に耳を貸すように手で促した。私がその指示に従うと、彼女は私の耳元で事の次第を説明してきた。

「前の体育の授業の着替えで空介が、内田が脱いだ学ランに水のりを塗ったみたいなの。内田が着替え終わって教室を出ていったのを確認してから」

 私の中で、新貝先生が持っていた、うっすらと白くなった内田の学ランが思い出された。なんとなくだが、おおよそ何があったのかが理解できた気がした。

「それで汚れた学ランを内田が着るか机に置くかしてたから、新貝先生が事情を聞いて、石井が自白したと」

 私が尋ねると、立川が首を縦に振りながら「そう。着てたのを脱がした」と答えた。

 話の流れを確認した私は、改めて石井と新貝先生に注目した。先生は石井に反撃の言葉を述べる暇を与えない勢いで、「自分がやられたら嫌なことは他人にしない! 小学校どころか幼稚園で習うような話だろ! どうしてそんな当たり前のことが守れないんだ! それともなんだ! 内田が転入生だからこういうことするのか! 東中の仲間じゃないからこういうことするのか! そんな言い訳が通用すると思うな! うちの制服着てうちの学校に来ている以上! 内田は間違いなく東中の仲間だ! あいつだけ仲間じゃないなんて話は通じないんだよ! 分かるか!」と、声を荒げて説教をしていた。本当に頭にきた時の小林先生と同じ雰囲気が漂っており、誰かが途中参戦できるような状況ではなかった。

 ここに対して自分ができそうなことがないと感じた私は、廊下から様子を見ている小林
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