68 / 214
♯5ー15
しおりを挟む
先生のほうに視線を向けた。「どうすんの、これ」と言いたげな表情をしている彼女の横には、この状況を報告してくれた松田、気になって様子を見に来たらしい三島先生と西川先生が合流していた。三人とも小林先生同様、この状況を心配しているような顔をしている。
私は小走りで小林先生のもとに引き返すと、彼女に品川たちから聞いた騒動の原因を説明した。
「また内田ですか。樋口先生も大変ですね」
小林先生が返事をする前に、西川先生が同情のセリフを口にした。あからさまな作り笑いに、授業以外で三年生と接しないという仕事内容、おまけに学校有数の怖い先生の一人という立場のおかげで二組の生徒も美術の授業では問題を起こさないという事実から、他人事だと考えている感じがすさまじい。
その一方三島先生は、開いている引き戸から不安そうに教室内を見ている松田を引き寄せ、「大丈夫だからね」と声をかけていた。自分が受け持つ生徒でもないのにここまでしてくれるなんて、なんて優しい先生なのだろう。彼女からは西川先生のような素っ気ない感じは微塵もしなかった。
私がそんな廊下の様子に気を取られていた、次の瞬間だった。
「もういいですよ、先生」
教室の後ろ側の席から、内田の淡白な声が聞こえてきた。誰かのことを気にするような雰囲気のない無機質な声に、教室と廊下の人間たちが一斉に意識を向けた。
内田は全員が自分に視線を向けたことを確認すると、席から立ち上がってこんなことを言い出した。
「不純物はクラス全体の輪を乱して、学校全体の雰囲気さえ悪くする。だったらそんな不純物は取り除くべきじゃないですか。たとえそれが、被害者側の人間だったとしても」
いきなり何を言い出すのか。せっかく新貝先生がかばってくれているのに、それを根本から否定するようなことを言い出した。私より先に小林先生がすりガラスの窓を開け、教室に身を乗り出してそういう旨の発言を内田にした。
「別に頼んでいません。こんな面倒ごとに巻き込まれるくらいなら学校なんか来たくないと考えていましたんで、むしろ迷惑です」
それに対して内田は、身の毛がよだつような冷酷な言葉で切り返した。そして小林先生がこのセリフにひるんだように、乗り出していた上半身を廊下に引っ込めたのを確認すると、内田は追い打ちと言わんばかりにさらに恐ろしい言葉を口にした。
私は小走りで小林先生のもとに引き返すと、彼女に品川たちから聞いた騒動の原因を説明した。
「また内田ですか。樋口先生も大変ですね」
小林先生が返事をする前に、西川先生が同情のセリフを口にした。あからさまな作り笑いに、授業以外で三年生と接しないという仕事内容、おまけに学校有数の怖い先生の一人という立場のおかげで二組の生徒も美術の授業では問題を起こさないという事実から、他人事だと考えている感じがすさまじい。
その一方三島先生は、開いている引き戸から不安そうに教室内を見ている松田を引き寄せ、「大丈夫だからね」と声をかけていた。自分が受け持つ生徒でもないのにここまでしてくれるなんて、なんて優しい先生なのだろう。彼女からは西川先生のような素っ気ない感じは微塵もしなかった。
私がそんな廊下の様子に気を取られていた、次の瞬間だった。
「もういいですよ、先生」
教室の後ろ側の席から、内田の淡白な声が聞こえてきた。誰かのことを気にするような雰囲気のない無機質な声に、教室と廊下の人間たちが一斉に意識を向けた。
内田は全員が自分に視線を向けたことを確認すると、席から立ち上がってこんなことを言い出した。
「不純物はクラス全体の輪を乱して、学校全体の雰囲気さえ悪くする。だったらそんな不純物は取り除くべきじゃないですか。たとえそれが、被害者側の人間だったとしても」
いきなり何を言い出すのか。せっかく新貝先生がかばってくれているのに、それを根本から否定するようなことを言い出した。私より先に小林先生がすりガラスの窓を開け、教室に身を乗り出してそういう旨の発言を内田にした。
「別に頼んでいません。こんな面倒ごとに巻き込まれるくらいなら学校なんか来たくないと考えていましたんで、むしろ迷惑です」
それに対して内田は、身の毛がよだつような冷酷な言葉で切り返した。そして小林先生がこのセリフにひるんだように、乗り出していた上半身を廊下に引っ込めたのを確認すると、内田は追い打ちと言わんばかりにさらに恐ろしい言葉を口にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる