イレブン

九十九光

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♯5ー15

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先生のほうに視線を向けた。「どうすんの、これ」と言いたげな表情をしている彼女の横には、この状況を報告してくれた松田、気になって様子を見に来たらしい三島先生と西川先生が合流していた。三人とも小林先生同様、この状況を心配しているような顔をしている。

 私は小走りで小林先生のもとに引き返すと、彼女に品川たちから聞いた騒動の原因を説明した。

「また内田ですか。樋口先生も大変ですね」

 小林先生が返事をする前に、西川先生が同情のセリフを口にした。あからさまな作り笑いに、授業以外で三年生と接しないという仕事内容、おまけに学校有数の怖い先生の一人という立場のおかげで二組の生徒も美術の授業では問題を起こさないという事実から、他人事だと考えている感じがすさまじい。

 その一方三島先生は、開いている引き戸から不安そうに教室内を見ている松田を引き寄せ、「大丈夫だからね」と声をかけていた。自分が受け持つ生徒でもないのにここまでしてくれるなんて、なんて優しい先生なのだろう。彼女からは西川先生のような素っ気ない感じは微塵もしなかった。

 私がそんな廊下の様子に気を取られていた、次の瞬間だった。

「もういいですよ、先生」

 教室の後ろ側の席から、内田の淡白な声が聞こえてきた。誰かのことを気にするような雰囲気のない無機質な声に、教室と廊下の人間たちが一斉に意識を向けた。

 内田は全員が自分に視線を向けたことを確認すると、席から立ち上がってこんなことを言い出した。

「不純物はクラス全体の輪を乱して、学校全体の雰囲気さえ悪くする。だったらそんな不純物は取り除くべきじゃないですか。たとえそれが、被害者側の人間だったとしても」

 いきなり何を言い出すのか。せっかく新貝先生がかばってくれているのに、それを根本から否定するようなことを言い出した。私より先に小林先生がすりガラスの窓を開け、教室に身を乗り出してそういう旨の発言を内田にした。

「別に頼んでいません。こんな面倒ごとに巻き込まれるくらいなら学校なんか来たくないと考えていましたんで、むしろ迷惑です」

 それに対して内田は、身の毛がよだつような冷酷な言葉で切り返した。そして小林先生がこのセリフにひるんだように、乗り出していた上半身を廊下に引っ込めたのを確認すると、内田は追い打ちと言わんばかりにさらに恐ろしい言葉を口にした。
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