74 / 214
♯6ー4
しおりを挟む
「ちょっと、あんたたち。何してるの」
周囲の話し声にかき消されないように意識しながら、前科持ちが大半の男子の集団に声をかけると、湯本が私の方向に振り向いた。
「もうちょっと待ってて、先生! あとちょっとで勝負つくから!」
言っていることの意味がすぐには呑み込めなかった。
私は男子の背後で背伸びをして、彼らが囲んでいる内田の机上を覗き込んだ。
内田が普通に自分の席に座る中、彼を除く男子たちはカードゲームをしていた。怪獣やら戦士やら魔法使いやらの手の込んだイラストが描きこまれたカードであり、いわゆるトレーディングカードゲームというやつだった。
「あんたらねえ……。遊戯王カード学校に持ってくるなって、何度言えば分かるの(私含めた大半の教師の間では、カードゲーム=遊戯王という考えが強く根づいている)」
「遊戯王じゃねーし! ヴァンガードだし!」
私があきれた調子で放った言葉に、手に四枚ほど黒っぽい色のカードを持っている山本が反論した。現金をかけてポーカーしたこいつらの先輩のせいで東中はトランプも持ち込み禁止なのだから、はっきり言ってどっちでもいい。
それより私の中で引っかかっているのは、そのゲームをやる場所がどうして内田の席なのかという話である。山本の対戦相手は彼と同じように手札を持っている浜崎だと予想できるので、内田はこのゲームに関係がないはずなのだ。
「で、なんであんたら、内田の席でゲームしてるの?」
私が男たちにストレートに質問すると、中沢がこう答えた。
「いや、カード広げても、平治の奴、嫌がらなかったから」
なんだ、この理由になってない話は。いや、本当に深く考えてないだけなのか。
私は一応、この中沢の発言の真偽を内田に確認した。まだあの事件から一日しか経っていないせいで、もしかすると、という考えが急に浮上したからだ。
「はい。中沢君の言った通りです。どうでもよかったので、好きにさせました」
内田は相変わらずドライな反応を返してきた。自分がされたことが、国でいうところの領土侵犯に相当するということを理解しているのだろうか。
私の中でモヤモヤした気分が湧き上がってくると、浜崎がそこをかき回すようにこんなことを言ってきた。
「先生、ちょっと待って! 本当に! 本当にあとちょっとで終わりそうだから!」
周囲の話し声にかき消されないように意識しながら、前科持ちが大半の男子の集団に声をかけると、湯本が私の方向に振り向いた。
「もうちょっと待ってて、先生! あとちょっとで勝負つくから!」
言っていることの意味がすぐには呑み込めなかった。
私は男子の背後で背伸びをして、彼らが囲んでいる内田の机上を覗き込んだ。
内田が普通に自分の席に座る中、彼を除く男子たちはカードゲームをしていた。怪獣やら戦士やら魔法使いやらの手の込んだイラストが描きこまれたカードであり、いわゆるトレーディングカードゲームというやつだった。
「あんたらねえ……。遊戯王カード学校に持ってくるなって、何度言えば分かるの(私含めた大半の教師の間では、カードゲーム=遊戯王という考えが強く根づいている)」
「遊戯王じゃねーし! ヴァンガードだし!」
私があきれた調子で放った言葉に、手に四枚ほど黒っぽい色のカードを持っている山本が反論した。現金をかけてポーカーしたこいつらの先輩のせいで東中はトランプも持ち込み禁止なのだから、はっきり言ってどっちでもいい。
それより私の中で引っかかっているのは、そのゲームをやる場所がどうして内田の席なのかという話である。山本の対戦相手は彼と同じように手札を持っている浜崎だと予想できるので、内田はこのゲームに関係がないはずなのだ。
「で、なんであんたら、内田の席でゲームしてるの?」
私が男たちにストレートに質問すると、中沢がこう答えた。
「いや、カード広げても、平治の奴、嫌がらなかったから」
なんだ、この理由になってない話は。いや、本当に深く考えてないだけなのか。
私は一応、この中沢の発言の真偽を内田に確認した。まだあの事件から一日しか経っていないせいで、もしかすると、という考えが急に浮上したからだ。
「はい。中沢君の言った通りです。どうでもよかったので、好きにさせました」
内田は相変わらずドライな反応を返してきた。自分がされたことが、国でいうところの領土侵犯に相当するということを理解しているのだろうか。
私の中でモヤモヤした気分が湧き上がってくると、浜崎がそこをかき回すようにこんなことを言ってきた。
「先生、ちょっと待って! 本当に! 本当にあとちょっとで終わりそうだから!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる