イレブン

九十九光

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♯6ー4

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「ちょっと、あんたたち。何してるの」

 周囲の話し声にかき消されないように意識しながら、前科持ちが大半の男子の集団に声をかけると、湯本が私の方向に振り向いた。

「もうちょっと待ってて、先生! あとちょっとで勝負つくから!」

 言っていることの意味がすぐには呑み込めなかった。

 私は男子の背後で背伸びをして、彼らが囲んでいる内田の机上を覗き込んだ。

 内田が普通に自分の席に座る中、彼を除く男子たちはカードゲームをしていた。怪獣やら戦士やら魔法使いやらの手の込んだイラストが描きこまれたカードであり、いわゆるトレーディングカードゲームというやつだった。

「あんたらねえ……。遊戯王カード学校に持ってくるなって、何度言えば分かるの(私含めた大半の教師の間では、カードゲーム=遊戯王という考えが強く根づいている)」

「遊戯王じゃねーし! ヴァンガードだし!」

 私があきれた調子で放った言葉に、手に四枚ほど黒っぽい色のカードを持っている山本が反論した。現金をかけてポーカーしたこいつらの先輩のせいで東中はトランプも持ち込み禁止なのだから、はっきり言ってどっちでもいい。

 それより私の中で引っかかっているのは、そのゲームをやる場所がどうして内田の席なのかという話である。山本の対戦相手は彼と同じように手札を持っている浜崎だと予想できるので、内田はこのゲームに関係がないはずなのだ。

「で、なんであんたら、内田の席でゲームしてるの?」

 私が男たちにストレートに質問すると、中沢がこう答えた。

「いや、カード広げても、平治の奴、嫌がらなかったから」

 なんだ、この理由になってない話は。いや、本当に深く考えてないだけなのか。

 私は一応、この中沢の発言の真偽を内田に確認した。まだあの事件から一日しか経っていないせいで、もしかすると、という考えが急に浮上したからだ。

「はい。中沢君の言った通りです。どうでもよかったので、好きにさせました」

 内田は相変わらずドライな反応を返してきた。自分がされたことが、国でいうところの領土侵犯に相当するということを理解しているのだろうか。

 私の中でモヤモヤした気分が湧き上がってくると、浜崎がそこをかき回すようにこんなことを言ってきた。

「先生、ちょっと待って! 本当に! 本当にあとちょっとで終わりそうだから!」
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