イレブン

九十九光

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♯6ー5

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 自分が怒られているという自覚がないのか、こいつは。

 私は内田の卓上に展開されていたカードを残らず取り上げ、「あんたら四人、あとで職員室ね」と宣告して教卓に向かった。「あー! 返せよ、俺のブラスター・ブレード!」という山本の声が聞こえたが、知ったことじゃない。

 日付どころか月も替わって、六月一日の水曜日。その掃除の時間。私はこの時間、二組の教室と、校舎四階東の突き当りにある家庭科室の監督をすることになっている。いずれも二組の生徒が受け持つ掃除区域だからだ。

 二組の教室における前半の見回りを終えた私は、教室目の前にある階段で四階に上がる。閉めきってある家庭科室の引き戸の向こうからは、女子数人の話し声が聞こえてきていた。これもいつも通りだ。どうせ今日もほうき片手にガールズトークに花を咲かせているのだろう。私は引き戸を開けながら、「おーい。廊下まで声が聞こえてるぞー。真面目にやってるかー」と、中にいる女子たちに注意を促した。

 しかし中では意外な光景が広がっていた。室内北側のミシンが置かれた台の横で、品川、立川、吹奏楽部所属の井上由真(よくしゃべる以外の特徴がない生徒)の三人が、内田を囲むようにしておしゃべりをしていたのだ。三人ともご丁寧に内田に顔を向けて話をしており、明らかに彼と話をしていた様子だった。

 私は当初、珍しいこともあるものだと思った。いろんな男子との関係がうわさされている立川はともかく、品川や井上が部活以外で男子と話す光景を見たことも聞いたこともなかったからだ。

「あんたたち、何話してたの?」

 私が単刀直入に質問すると、すぐに井上が反応を返してきた。

「いや……、平治君、どんな子がタイプかなーって……」

 なんだかはぐらかすような間が見えた。いくら私が生徒に冷たいからって、この程度の心情変化は見逃さないように訓練を受けている(人と話さず、顔色をうかがって空気を読み続けてきた賜物でもあるのだが)。

「例えば、どんな質問したの?」

「ほら、あれだよ……。この三人で誰が一番好み、とか……。ねえ?」

 井上が横にいる品川と立川に同意を求めた。二人は揃って「そうそう」と言いながら首を縦に振った。あまり悪びれる様子は感じられないが、『私とお義母さん、どっちが大事なの!』という嫁さんの質問並みに神経を遣いそうな質問だ。
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