イレブン

九十九光

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♯9ー6

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めての出来事に深呼吸で対応していた。

 私はついさっき、内田の中にもしかしたら地震のトラウマが根づいているかもしれないという予想を聞かされていた。合わせて一分もない時間に起きたこの出来事は、その予想の的中を意味していた。

 私の推論が混じっているが、今まではあまりにも教室内が騒がしすぎて、震度一程度の揺れには気づかなかっただけだったのだ。それが今回、偶然教室全体が静まり返ったタイミングで揺れが起きたことにより、内田は本来持っていた振動への過剰な反応を見せたのである。

 授業後、私は職員室に戻る前に内田を呼び、念のための確認をした。

「内田、やっぱり地震が怖いか」

「……。すみませんでした」

「謝ることないよ。それより五時間目のプール、どうする? やめておくんなら、私が山田先生に言っておくけど……」

「……。大丈夫です。すみませんでした」

 内田はかたくなな姿勢を崩さなかった。こう意固地にされると、「そうか。無理はしないでね」と言うしかない。

ちなみにこの後ネットで確認したところ、本当にあの時間に震度一の地震が起きていた。

 こうして時間は一気に進み、午後一時半の五時間目。生徒の多くが待ちに待っていたプールの時間がやってきた。

 「水泳の授業ってそんなに嬉しいものか?」と私は思うのだが、東中のプールの時間は、文科省が定めた泳力測定を一回やって、その後は泳ぎの練習半分、自由時間半分というカリキュラムだとか。なんてゆとり教育全開の授業内容なのだろうか。

 実際その雰囲気は、武道場前の外側の通路を通り、女子の更衣室を経由して、コンクリート丸出しのプールサイドにやってきた時点でひしひしと伝わってきていた。松田のような水泳部員は、実際の大会で使える競技水着を着用し、品川などの非水泳部員の女子は、色にも形状にも統一性皆無のスクール水着を着ていた。男子はそれがさらに顕著に表れており、オシャレを意識した短パンのような水着を着ている者ばかりだった。

「本当にこんなにルーズなんですね……」

 日が照りつけ、西側ののぞき防止フェンスの上に雑木林のてっぺんが見えるプールサイドに生徒が集まり始める中、特注と思われる競泳用水着を着て女子生徒を並ばせる小林先
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