イレブン

九十九光

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♯9ー7

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生を見て、私は一言コメントした。

「まあ、毎年こんななもんだから」

 何人かの男子とともに更衣室から出てきた山田先生が言う。彼の服装も、短パンと言ってもバレそうにない迷彩柄の水着だった。老けた顔と首にかけたホイッスルがなかったら、生徒と見分けがつかなかっただろう。

「あれ? 樋口は水着着ないの?」

 その山田先生と似たり寄ったりな格好の湯本が、袖をまくった白いワイシャツに空色のズボンという、一時間目とまったく同じ格好の私に質問した。十歳近く年上の女の水着なんか見たいのかと内心思いながら、「だって泳がないもん」と一蹴してやった。

「男子! 三島先生出てくるよ!」

 女子更衣室から出てきた立川が、更衣室の出入り口付近に固まっている男子たちに伝えてきた。その顔はわざとらしくにやついており、教員をからかって楽しんでいるのはすぐに分かった。

 すぐさま男子の中から「おおーっ!」という歓喜の声が上がった。山田先生が「やめなさい」と一呼吸置いて、比較的優しい言葉で諭す。程度の低い学校だ。

 こうして男どもの期待を一身に背負って、元CAの美人教師が姿を現した。

 袖はしっかりと伸ばされ、両手に白い手袋をはめ、つばの広い麦わら帽子にマスクにサングラス、季節外れのマフラーで完璧な日焼け対策を施した、色気のかけらもない服装だった。

「なんだよー! 水着じゃねえじゃねえかー!」

「水着だって言ってないじゃん、雄二ー! ホントは私も焼けたくないからこういう格好」

「亜美! 早く並ぶ!」

 騒がしくなったプールサイドを、小林先生が一言吠えて黙らせた。

「本日はよろしくお願いしますー」

 壁の向こうを走る車の音が聞こえるほど静かになったところで、三島先生が頭を下げながら私のところに寄って来る。声を聞かないと本当に誰だか分からない。

「……。先生、すごい格好ですね……」

「紫外線、苦手なんです。それより、あそこ……」

 不審人物にしか見えない三島先生が、私の後方を(手袋で)白い指で指し示す。

 膝上まで丈がある、黒っぽい海パンを穿いている内田がいた。いつもと変わらないポーカーフェイスで、山田先生の手によって湯本から離されている真っ最中だった。
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