イレブン

九十九光

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♯12ー6

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 腕ずくはまずいということだけ頭に入れて、私は湯本の肩に手を置いた。

 当然彼は、その手を無造作に払いのけ、視線を下に向けてその場に立ち尽くす。思い通りにならなくてふてくされた三歳児のような反応だ。

「そんな態度したって仕方ないでしょ。学校の時間に遊んでたあんたらが悪いんだから」

 私はもう一度湯本の肩に手を置いた。再び彼はその手を払いのける。

「いいから来なさいって。いつまでも子供みたいなことしてんじゃないの」

 私は三度湯本の肩に手を置いた。今度は無言の拒否ではなかった。

「うるせえよ!」

 湯本は突き飛ばすような勢いで私の手を払いのけ、私の顔をにらみつけてきた。

「口を開けばいつもいつも学校行け学校行け! 行かせたところで嘘つくだけでろくなこと教えねえくせに! 先生だからって偉そうにしてんじゃねえぞ、おら!」

 『先生』が『センコー』になっていないだけまだかわいい、なんて考える余裕もないうちに、私は湯本を含めた男子六人に取り囲まれた。何組の生徒が何人いるなど、いちいち数える余裕がないほど切羽詰まった状況だ。いくら十歳以上年下の連中とはいえ、この数、しかも運動部員がいることも考えると、否応なしに身の危険を感じてしまう。

 するとそこに、先ほど湯本と口論になっていた老人が会話に舞い戻ってきた。

「なんだその言い方は! 先生の言うことくらい素直に聞いたらどうだ!」

「黙ってろよ、ジジイ!」

 私を囲む男子生徒の一人が、その老人に怒鳴り返す。それにほかの老人は広場隅のイチョウの木まで後ずさりした。

 その後、湯本たちとよく怒鳴る老人一人は、私を囲んで身動き取れなくしている状態で、再び言い争いを開始した。老人が「学校に行け!」と言えば、それを中学生が「黙れ!」と言い返すという、なんの進展もない不毛な言い争いだった。そして私がなだめようと口を挟むと、「うるせえんだよ!」と生徒に言い返され、逆上し始めた老人からは、「そもそもあんたらがしっかりしてないからこうなるんだろ! 学校でどんなしつけしてるんだ!」と指をさされる。放っておくと何時間でも同じことを繰り返しそうな勢いだった。

「こ……! 小林先生! なんとかしてください!」

 私は男七人にもみくちゃにされながら、右手を挙げて階段前の小林先生に助けを呼んだ。すでに目の前に飛び込んだ服のプリントが、誰の服のプリントだか分からない状態だ。

 そこからどれだけこの状態が続いたか、検討もつかなかった。汗くさい男たちのにおいを
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