イレブン

九十九光

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♯12ー5

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解決してほしいと思う。

 そんなことを言ってもいられないので、私たち二人は無人の境内の中を通って問題の広場へ下りていった。すると、というより車を降りると同時に、湯本と年寄りの男性の怒鳴り合いが聞こえてきた。

「何度言わせるんだ! 学生がこんな時間にこんなところで遊ぶんじゃない!」

「俺らがどこで何してたって関係ないだろ! ジジイが首突っ込むんじゃねえよ!」

「それが中学生の態度か! さっさとうちに帰って学校行け!」

「うるせえよ、ジジイ! なんであんなところに行かなきゃなんねえんだ! そんなもんお前が勝手に決めんな!」

「何をバカなこと言ってんだ! 学校行って勉強するのはお前たちの仕事だろ!」

「んなこと知るか! そんなもん勝手に決めんじゃねえよ!」

 湯本悠馬と禿げかかった白髪の老人は、お互いの仲間が見守る中、親子げんかにしか見えない言い争いをしていた。広場のすぐ隣にある家の二階からは、騒ぎを聞きつけた住人がその様子を見下ろしている。今思い返せばかなり深刻な状況だったが、この時の私には大した問題に見えなかった。

「ほら、二人とも、一旦離れて」

 私は事務的な作業をするかのように二人の間に割って入り、とりあえずこの論争を中断させた。

 この慣れた作業の合間に取り巻きたちの様子をチラッと見ると、老人の仲良しクラブの人たちは、「やっと来た」「こいつらはこのガキどもにどんな教育してるんだ」とでも言いたげな視線をこちらに向けている。一方そのガキどもは、私たちの襲来に若干驚いた様子を見せ、速やかに一か所だけの退却路を確認する。だがそこは私たちも下りてくるのに使った階段であり、小林先生がその前に立ってふさいでいた。ただ彼女は、自分は何があってもこの階段を死守して悪ガキが逃げ出すのを防いでみせる、という決意と責任感には満ち溢れていなかった。ただそこに立っているだけという雰囲気のほうが強く、威圧感は皆無だった。何かを考えているように見えなくもないが、この仕事をやっつけ仕事と考えているようにも見えてくる、無気力な立ち方だった。

 そんな府抜けた感覚は私も同じだった。教育者としての情熱が湧き上がってくるような感覚とは程遠い気持ちで、不満げな様子の湯本に声をかける。

「全部で六人? ほら、ついてきなさい」
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