イレブン

九十九光

文字の大きさ
上 下
142 / 214

♯13ー7

しおりを挟む
まれた私の気持ちにもなってほしいものだ。

 私をここに連れてきた三島先生は、廊下と教室を仕切るすりガラスをすべて閉め、念には念をと言わんばかりに、前後の引き戸についている小さな窓ガラスの前に献立表を画鋲で張りつけて目隠しをした。そして仕上げにすべての引き戸とガラスのカギを閉めると、いそいそと自分の席に座った。

 最初に口を開いたのは私だった。

「えっと……。皆さん、本気でやるんですか?」

「前々から、何らかの形で生徒との距離を縮めようとは考えてました」

 そう言ったのは、私の右のはす向かいに座る佐藤先生だった。

「あまりどころか全然世間に出回ってないんで知らないでしょうけど、被災して引っ越してきた子供がいじめに遭うって話は、うちの学校だけじゃないんですよ。東京で小学校教師やってる知り合いの話だと、福島から来た子供がほかの子供に、『放射能がうつるからこっち来るな』とか、『早く福島に帰れ、なんとか菌』とか、そんなことばかり言われて不登校になったそうです。ゴールデンウィークに入る前に」

 佐藤先生のこの話は、確かに私も初めて聞いた話だった。彼の話の通りであれば、被災した人間への差別というのは東中だけの話ではなかったのだ。しかもそれを実質隠ぺいしたことまで一緒である。

「皆さん覚えてます? 僕が今期の定期テストで『はだしのゲン』から引用したって話。あれにもあるんですよ。ピカがうつるって被爆者が差別を受けるって話が。あれ読んで初めて知りましたよ。昔の日本でこんな差別があったなんて。許せないのは、それとまったく同じことが、放射能への知識が広く正しく存在するはずの、今の時代の日本で起きて、それが間違いだって誰も大きな声で言わないことなんです。いつか、少なくとも一学期中には、誰かが何か大きな行動を起こすんじゃないかと思ってましたが、これですよ。ひとつになろうニッポンなんていうきれい事を盾にして、百人単位で生徒が不登校になろうと、ピカの差別と同様に正規の歴史から消してしまおうとしてるんです。だからいつか、上の指示を無視して生徒に歩み寄ろうって思ったんです。こんな隠ぺい工作にかかわりたくなかったから」

 左手の拳を赤くなるほど強く握る佐藤先生は、三島先生から先ほどの手書きの紙を受け取った。

 紙には会の名前の下に、『私たちは組織の人間としての立場を捨て、生徒が望む通りに学校祭を行うことをここに誓います』と、汚い手書きの文字で記載されており、さらにその下
しおりを挟む

処理中です...