イレブン

九十九光

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♯13ー6

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 この彼女のお願いを聞いて、私はすっかり忘れていた佐藤先生からの伝言を思い出した。

「え? もしかして三島先生も呼ばれてるんですか?」

「はい。というより、三年生の担任が全員集まることになってます」

 あの時は疲労と気持ちの落胆でそこまで深く考えなかったが、どうやら重要な話し合いであることは間違いなかった。きっと三年生の不登校問題に関する、重要な話し合いをするのだろう。

 私は自分の席から数本のペンが入っている筆記具とメモ帳を手に取り、集合場所に行くために職員室を出ようとした。

 三島先生はそこに、こんなことを言ってきた。

「あ、印鑑もお願いできますか? シャチハタでもいいので」

 私はこの頼みに素直に応じる前に、一拍置いて彼女のほうに振り返った。二年以上この学校に在籍しているが、職員同士の話し合いで印鑑が必要になることなどなかったからだ。印鑑で何かしらの証明が必要な話し合いとは、一体何をするつもりなのだろうか。

 いや、この時点で話の真相は見えていなければならなかったのかもしれない。

 言われた通り生徒への通知表などに使うシャチハタを持った私が一組の教室に行くと、一枚の紙を見せつけられた。生徒がこなかったせいで大量に残った今月の献立表の一枚、その裏側に黒いボールペンで文字が手書きされた紙だった。

『学校に背を向けて学校祭をつぶす会』と。

「ちょっと皆さん……! 本気ですか!?」

 思わず私が声を上げると、「しっ! 誰かに聞こえたらまずい!」と、深沢先生に叱責された。

 午後四時を少し過ぎた一組の教室は、教室前側中央の列にあった八つの机が、4×2で向かい合うように並べられていた。人の配置から察するに、教室後方から順に一組から四組が並んでおり、担任が廊下側、副担任が校庭側の席に、お互いのパートナーと向かい合うように座ることになっているようだった。

 私は恐る恐る新貝先生と天草先生の間に座った。当然、私の目の前には大柄な体型の小林先生が座っている。ほかの先生もそうだが、全員が非常に緊張している様子だった。

 無理もない。先ほど見せられた紙の通りであれば、これから学校の意に反し、生徒と結託して学校祭を台無しにしようとしているのである。さながら気分は、本能寺に攻め込む前の明智軍関係者といったところだろう。なんの事情も知らされないままこんなものに巻き込
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