イレブン

九十九光

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♯13ー11

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活を過ごしてくれるようになるとは、とてもじゃないが信じられなかった。

 別に私の同僚である七人の力を疑っているわけではない。疑っているのは私自身の力だ。

 自信がなかった。人との対話に難儀し、普段はカバーダンスのようにマニュアル通りの行動しか行わず、自分からはなんのアクションも起こせず、誰かが何かしてくれるまでじっと待機する。それが私の知っている樋口明美だった。人の気持ちや行動の意味を瞬時に判断したり、自分からその真意を聞いたりしないで、周囲の人たちが意を決して自分の思いを口にするのを待たないと、人の頭の中を把握できない。私はそういう人間だった。そんな私が上の管理職たちに逆らって、マニュアルにない行動をして、思春期真っただ中の複雑な生徒百五十人近くを満足させるなど、とてもじゃないが自信がなかった。

「樋口先生、あなたはどうするの」

 私を現実に引き戻してきたのは、正面に座っている小林先生だった。

 私はすぐには答えられなかった。頭の中では、ほかの人はみんなやると言ったのだから、自分だけノーと言えないと考えていた。それ以外の答えなんてあるはずがなかった。

 だが私は、その頭の中とは真逆の答えを口にした。

「……。無理ですよ。百五十人ちょっとでどうにかできるわけがない」

 やはりこの答えが予想外だったのか、目を丸くする、細めた目でにらみつけるなど、先生たちはそれぞれの反応を私に向けてきた。それでも私は訂正しない。

「百人以上不登校になって、その理由もはっきりしているのにもみ消しに走るなんて、普通に考えたら隠す意味もないって思うじゃないですか。でもそれがまかり通るのがこの国なんですよ。どうせ何をしたところで、生徒と教員が行き過ぎた悪ふざけをしたって公表されて、生徒ともども経歴に傷だけが残って、そのあとの生活に難儀するに決まってる。佐藤先生、言いましたよね? 東中で起きた被災者差別が別の学校でもあったって。詳しいことは知りませんけど、全国どこの学校でも、もしかしたら大人だけが所属する会社や町内会でも、同じようなことが起きてるって想像できる。そういう話が今、テレビや新聞で報じられていますか? まったくないでしょ。ひとつになろうニッポンっていうスローガンが崩れないように、何か大きな力で情報統制されているからです。皆さんの敵は佐久間校長やPTAじゃない。この国そのものなんです。たったの百五十人ちょっと、それもほとんどが中学生の集まりなんかがどうにかできる相手じゃない。ただ単に罰を与えられて、事実そのものはなかったことにされるに決まってる。やるだけ無駄ですよ」

 イエスマンであるはずの私が初めてノーを突きつけた瞬間だった。しかしそれは、自分が
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