イレブン

九十九光

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♯14ー7

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 この間の電話の主だった長谷川さんは、私たち五人に軽く会釈をした。電話の声をこちらが覚えていなかったせいで、同一人物だとはすぐに気づけなかった。

「もしかして、そちらの方って……」

 信子さんが長谷川さんの後方にいた共演者の女性を指さす。芸能界に疎い私は、やっぱりとても有名な人なのだと再認識した。

 そんな彼女が右手を胸に当てながら自己紹介をする。

「初めまして。女優の真栄田真子(しんえいだ まこ)と申します。本日はよろしくお願いします」

 これに対して信子さんは、「あーやっぱりそうだ」と、できるだけ小さめのリアクションを意識しながらも明らかに興奮していた。この真栄田さんは沖縄出身の女優さんで、この時期は戦時中の長野県を舞台にしたテレビドラマに出演していた。要は、今一番脂の乗った人を取材の現場に立ち会わせ、映像映えを狙おうという計画らしい。

 ちなみにこの時まだカメラは回っていない。これから始まるのは、単なる撮影前の打ち合わせである。

 もちろん話の主導権は長谷川さんが持っている。

「それではこのあと、文化会館二階の会議室Aに皆さん五人が先に入っていただきます。その後真栄田さんが入ってきますので、その後は適宜こちらが示した質問にお答えいただければ。どうしても答えに迷う場合は、こちらで指示をお出ししますので」

 こういう風に裏側のことを先に知ってしまうと、このあとの取材がなんだか間抜けな感じになってしまう。だが大衆向けの番組を作らなければいけない以上、こういった事前の擦り合わせは非常に重要なのだろう。

「それと、内田ご夫妻と石井さん。できるだけ自然な絵を撮りたいので、あとでロケバスのほうで衣装を着替えてください」

 長谷川さんに名指しされた女性陣二人は驚きながらも、「あ、はい」と返事をする。その横で穣一さんは、「だから初めっから普通の服着てくればよかったんだよ」と、笑いながら自分の奥さんの肩を叩いた。

 こうして私たちはテレビ局の別の人間の案内の元、文化会館二階の会議室Aに入った。パイプ椅子がハの字型に、窓側に一つ、廊下側に五つ設置されており、どういう感じのカメラアングルになるのかは一目瞭然だった。内田は廊下側、カメラから見て右端の椅子に、私は左端に座り、その間に番組ロゴの入ったTシャツ姿の内田夫妻と石井母が入ってきた。部屋
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