イレブン

九十九光

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♯17ー2

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えませんよ」

 来賓用の出入り口から体育館に向かって歩いている途中、私の前を行くこの校長先生は山田先生のことをべた褒めし続けた。

 おまけで説明すると、この先生は山田先生の先輩というだけでなく、現役の自衛隊員の息子さんがいるという。そしてその息子さんは実際に東北の震災被災地に出向き、がれき撤去や炊き出し、食料品などの配給作業に従事していた。その時体験した、遺体発見の話、それを袋に入れて空き地に土葬した話、被災者同士が場所やら食料品やらを取り合って乱闘していた話などを、正直今思い出しても気分が悪くなるという感想とともにこの校長に話していたのだ。間違いなくその体験への共感が、今回の東中の謀反への協力につながったのだろう。よくもまあ、ほかの教員や佐布里小の保護者たちを納得させられたものだ。

 それにしても、石井母といいこの男の人といい、人づてに聞いた話に影響される人というのは思った以上に多いものだ。内田から彼の過去を聞かされても涙を流して同情するということをしなかった私は、こんないい人間もいるものなのだなと感心するしかない。

「山田先生。樋口先生が来ました」

 佐布里小の校長が、体育館の金属製の引き戸を開けながら声を上げた。体育館にはその山田先生をはじめとした教師七人に、湯本、品川、石井、浜崎、伊達、原田、松田、美津島、伊藤、今田をはじめとした数十人の体操着姿の東中生徒がいた。一様に、トランペットやギターなどの楽器を持ち出していたり、壇上にあるピアノの調子を見ていたりしている。

「おおーっ! マジで樋口が来たー!」

 湯本と美津島が声を上げると、二組以外の生徒もその多くが声を上げる。テレビのバラエティ番組のエキストラのごとく、タイミングを合わせて「おおーっ!」という驚きの声を上げる、といった感じである。事前に先生たちが生徒への信頼を取り戻していた証拠だ。

 それより私が気になったのは、その先生たちの表情だった。天草、山田、小林、新貝、佐藤、深沢、三島先生の七人は、体育館壇上横の壁際で横一列に並んでいる。いずれもジャージやTシャツといった動きやすい服装で、姿勢も服装も統一感のない、まさに自然体という感じの立ち方である。そんな七人の表情は硬かった。急に手の平を返した私の真意を疑っているのか、こいつは本気で教師を辞めてもいいって思っているのかと考えているのか。

「あ……。皆さん、その……」

 仕事でも使う上履きから体育館用のスリッパに履き替えた私は、顔色をうかがうように視線を横に移動させる。それより先の言葉は浮かばなかった。
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