イレブン

九十九光

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♯17ー4

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 その言葉のおおよそ二秒後に、ギターとドラムによる前奏が始まった。雰囲気はJポップの色合いが強そうなロックで、明るさと爽やかさが前面に押し出した感じの曲調だった。その後伊達の声で歌われた歌詞は、いわゆるメッセージソングと言って差し支えなさそうなものだった。現実的な考えをする大人に反感を覚え、模範解答さえない世の中の問題や個人的な悩みに四苦八苦して、タイトル通りかさぶただらけになりながら前に進む心情を歌った歌詞である。耳の痛くなる曲だ。

「どう? いい曲選んでやったでしょ?」

 私の横で曲を聴くワイシャツ姿の天草先生が、少し自慢げに小声で言ってきた。

「これ、天草先生が選んだんですか?」

 私が同じように小声で尋ねると、「うん。君彦たちが『オススメとかない?』って聞いてきたから」と、彼は折りたたまれた一枚のA4用紙を取り出した。この先生特有の達筆で書かれているせいで、すぐにその内容を知るのは難しい。慣れない字体に目を凝らしながら字を追っていくと、次のような記載がされていることが分かった。

 

いきものがかり『風と未来』、モンゴル800『あなたに』、ZONE『secret base ~君がくれたもの~』、ベッキー♪#『エメラルド』、FLOW『GO!!!』

 

 運転中の車内で口ずさんだりしないほど音楽に興味がない私には、いきものがかりってあったから曲のリストだな、という具合に連想するのがやっとだった。これ以外にも色々と曲名が載っているのだが、フレーズや歌詞の一部を思い出せたのは数曲だけだった。

「半分くらいは、生徒は自分で持ってきた曲でね。アニソンやドラマの主題歌が多めってのが、いかにも今時の中学生って感じがするね」

 天草先生ははにかみながら感想を述べ、私も、「ふーん。そうなんだ」という具合にうなずきながら聞いていた。

 そのうち、壇上で行われていた約三分間の演奏が終了し、同時に私の周囲から拍手がわき起こった。私もそれに合わせるように手を叩く。伊達たちは、「みんなありがとう!」「愛してるぜ!」など、お金を取るライブをやったバンドのようなことを言っている。それも一通り終わると、「樋口、どうだった?」と、伊達がマイク越しに感想を求めてきた。

 そんなことを言われたって困る。さっきも言ったが、私は音楽に関する知識なんて皆無だし、この曲自体今日初めて聴き、原曲がどんな感じかもまったく知らない。
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