イレブン

九十九光

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♯19ー6

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たった今シューズに履き替えて体育館に入ってきた内田がいた。

 彼が自分以外の三年生が誰もいないことに戸惑っているのは、遠目に見ても明らかだった。すぐに小林先生が彼のもとに駆け寄り、何かしら言葉をかけると、内田は体育館前方の空いているスペースに体育座りした。本当に大したトラブルなく話が進んでいく。

 やがて司会進行を担当する西川先生が、体育館の隅に設置されたスタンドマイクに向かって、「全校生徒、静かに」と指示を出す。ほとんど一、二年生で占められた全校生徒が一斉に静かになり、西川先生の言葉に耳を傾け始めた。

「ただいまより、第二十九回、知多市立東中学校学校祭、オープニングセレモニーを始めます。最初に、校長先生の言葉」

 この言葉に続き、指名された佐久間校長が閉められた緞帳の前に立ち、一礼してから手に持つマイクに向かって話しかける。

「朝夕のしのぎやすさとは裏腹に、日中はまだまだ暑い今日この頃。皆さん、きっと今日という日をとても心待ちにしていたと思います。今日から二日間、東中学校は学外から多くの人を招きます。お父さん、お母さん、近所の方々、卒業生の方々、知多市の関係者の方々、幼稚園児や小学生。たくさんの人たちが、君たちの成長と活躍を見るためにやってきます。こうやって言うと君たちはとても緊張するかもしれません。失敗したらどうしよう。恥ずかしいところを見られたらどうしよう。と。ですが皆さん、安心してください。皆さんは今日この日のために、六月の頭から必死になって練習をし、アイディアを絞り、仲間との絆を強めてきました。私はそれをよく知っています。そしてそれが、誰に見せても恥ずかしくないものだと思っています。自信を持って、今日から二日間、自分たちの持てる力を出しきり、また、共に過ごす仲間たちの成長に胸をはせ、思いっきり楽しんでください。皆さん、精一杯自分たちの力を出しきって、やってきた人たち全員に、我ら東中のすばらしさ、元気強さ、絆の強さを見せてあげてください」

 本来の予定だと、佐久間校長はこの挨拶をあっさりと済ませるつもりでいるとしていた。だが実際は、こちらが思っていたよりずっと長い時間しゃべっていたように思えた。けやきのきの到着が遅れると知り、できるだけ時間を稼いでおこうという腹積もりなのだろう。

 こうして、これから起こる事件を事前に計画した者としてはちっとも心に響かない話が終わり、佐久間校長は申し訳程度の拍手に送られながら舞台から降りていった。

 そしてついに、私の中で本格的に緊張感を与える言葉が、西川先生の口から飛び出した。

「続きまして、少し予定を変えて、吹奏楽部一、二年生による、『SFアニメーションオー
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