イレブン

九十九光

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♯19ー9

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『鉄腕アトム』、水木一郎の『マジンガーZ』、『飛べ!ガンダム』に『残酷な天使のテーゼ』、AKINOの『創聖のアクエリオン』の、吹奏楽としてアレンジされたメドレーを演奏した。完全に吹奏楽部の一、二年生がやるはずの演目だった。

 入り口で固まっていた吹奏楽部の下級生たちは、押されるように体育館へと入っていき、自分たちの知らないところでハイレベルに仕上がるように練習していた上級生たちの演奏に聴き惚れていた(確実に私の私情の強い表現である)。この彼、彼女らの行動はその後のほかの下級生たちの行動を完全に決定づけた。

 吹奏楽部によりメドレーの終了度、壇上の隅に残っていた品川が、ラジオ番組で曲と曲の合間に流れていそうな短いBGMに合わせて司会を続ける。

「さあ、オープニングセレモニーも終わり、本格的に始まってまいりました! 東中学校一日まるっと上級生ライブ! このテンションのままドンドンいっちゃいましょう! 続きまして、岡村洋平ほか、東中三年のイケメン五人組プレゼンツ! ORANGE RANGEの『お願い!セニョリータ』!」

 品川のその言葉に続き、舞台袖から岡村を含めた五人の男子生徒が飛び出し、夏のJポップの定番ソングを歌い出す。品川の言葉通り、異性から憧れることの多い生徒で構成された五人が歌うこのアップテンポな曲は、吹奏楽部から派生したこの状況を楽しむ方向をより加速させることになった。歌詞を知っている観客たちがサビの合いの手を入れ、まさに会場全体が一体と化した、という空気ができあがってしまった。

 無論、他学年の先生の大半は、この状況をよしと考えない人ばかりである。

「樋口先生! そこどいて! 照明やめさせて!」

 少し時間が経ち、三組の生徒が福山芳樹の『真赤な誓い』を熱唱している中、西川先生が、私が頂点を陣取っている梯子をのぼってきた。

「ごめんなさいね。ちょっとそれは無理ですね」

 私は事前に決めていたセリフを言いながら、今年で五十二になるこの美術教師を見下ろす。当然、男版小林先生と揶揄されるこの人が、こんなことで引き下がるわけがなかった。

「あんな勝手なことを許すなんて何考えてるんだ! 早くやめさせろ! 来賓も大勢いるんだぞ!」

 彼に言われて薄暗い会場内を見渡してみると、確かにスーツ姿の見慣れない大人が何人か見受けられる。市や教育委員会の関係者だということは一目瞭然だ。まあ、だからなんだというのが、実際にこの反逆行為にかかわった者としての率直な感想なのだが。
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