イレブン

九十九光

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♯19ー10

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「いいじゃないですか。東中のありのままの姿を見てもらえるんですから」

「あんたなあ……! こんなの見られたら……!」

 西川先生が限界と言わんばかりに両腕をプルプルさせ始めた。怒りの感情からではなく寄る年波の限界からきているのは間違いなさそうだ。

「さあ、外部からのお客さんも増えてヒートアップしてきました今日この頃! ここで一発、みんなが知ってるあの曲いってみよう! 諸田南プレゼンツ! 松任谷由実の『やさしさに包まれたなら』!」

 この品川のちょっとおかしなセリフが会場内に響き渡ると同時に、体力の限界を感じた西川先生は、ゆっくりと梯子を下りていった。

 その後、三年生が主体となって行われるライブ演奏は、誰にも止めようのないものとなっていった。合わせて三百人近くいる一、二年生は、予定にまったくないこのイベントをすっかり楽しんでおり、時には憧れの先輩の演目に乱入してデュエットをする者まで現れる始末。詳しいプログラムを知らずにやってきた、見慣れた顔の保護者や見慣れない教育委員会の関係者などの外部からのお客さんも、今年の東中はこういうスタンスでやるのかとでも考えたのか、生徒と一緒に合いの手を打ったり、後方で知り合いと何やら話しながら小一時間立ち見したりしている。そしてこれだけ盛り上がってしまうと、最初はやめさせる方向に動いていた他学年の教員たちにも諦めムードが漂い始めた。中には生徒と一緒になって拳を上にあげ、観客生徒の無茶ぶりで壇上に上がって十八番を歌う人まで現れた。

 そんなライブの様子を文字通り高みの見物で観賞している私は、実際結構チープなライブなのによくこんなに盛り上がったな、と感心していた。

 いくら百五十人もいるとはいえ、その中で楽器や歌に精通している生徒なんて数えるほどしかない。歌唱力はその場のノリでごまかし、楽曲はどうにもならなかった分は裏方で音響をしている伊藤正次が市販のCDやノートパソコンからのYouTubeで流している。これで時間の経過を忘れて、常識的な考えの大人たちまで興奮させてしまうのだから末恐ろしい子供たちである。

 そして見ていて面白いのは、普段そこまで目立つことのない生徒が大きく活躍していることだった。湯本悠馬の演目が終わり、次の演目紹介を品川がやろうとしたその時だった。

「さあ、続きまして」

「続きましては! さっきからここで偉そうに司会進行してる萌ちゃんに歌ってもらいましょう!」
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