イレブン

九十九光

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♯19ー11

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 品川のセリフを遮るように、一度舞台袖に引っ込んだ上半身裸の湯本が引き返し、マイク片手に進行役を奪っていく。品川の「え? ちょっと待って」という早口な言葉から、彼女の台本にはない展開だと予想できる。

「品川萌プレゼンツ! 松本梨香の『タイプ:ワイルド』!」

 マイクを渡され困惑する品川をよそに、スピーカーからは曲冒頭のハーモニカの独奏が聞こえてくる。

 その次の瞬間、全員の視線が品川の後ろでギターソロをする少年に向けられた。

 今田ペドロだった。小暮同様無口な性格の彼は、大観衆が見守る中でこの曲のギターを担当するのだ。そこにボーカルの品川が合流し、本格的に曲が始まった。不意打ちも同然に始まった演目は、観衆からの手拍子も起こり、完璧につかみを成功させた。

 驚かされたのは今田のギターだった。自宅で個人的にやっているのだろうが、すでに二時間半経過しているこの時点まででトップクラスの技術だというのは、素人の私にも感じることができた。半分ブラジル人の血が混じり、それが原因で今まで他学年の生徒から敬遠されていた彼は、元々人に好かれやすい性格の品川とともに、全校生徒からの歓声を全身で受け止めていた。

 こうしたサプライズの塊のようなライブは、正午を過ぎても一向に終わる気配がなかった。時折曲と曲の合間に小休止と司会交代の意味を込めたトークを挟みながら、本当にノンストップでライブを続ける気でいることを観客に伝えていた。その観客たちも大変ノリがよく、トイレがお昼ご飯で一度引き上げる人さえほんの数人しかいない。そうなれば壇上の生徒たちにも俄然熱が入るのは自然なことだった。

「みんな、そろそろお腹はすいたかな? でもこのお祭りは止まることなく続いていくぜ! お次は石井空介プレゼンツ! 橘慶太の『FRIEND』!」

 品川から交代した四組男子の司会に呼ばれ、舞台袖から楽器演奏の生徒とともに石井が出てくる。服装は全員揃ってひねりのない白黒の制服姿である。

 石井はすぐに歌い出さなかった。舞台中央のスタンドマイクの前に立ってから、十秒ほど何かを探すように小さく顔を左右に動かす。まるで映画上映の直前のように、それまで雑踏が混じって騒がしかった会場は静まり返った。そこから彼は、歌い出しのタイミングを伝えるように、右足で床を四回軽く叩いた。

 こうして始まった曲は、全体的に比較的落ち着いてはいるが、サビだけ少し流れが速くなり、そこで感情が込められる曲だった。歌詞で語られているのは、遠いどこかへ行ってしま
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