211 / 214
エピローグ3
しおりを挟む
が不利になるような真似は絶対にしないこと。
二つ、私たちの懲戒免職は三年生の卒業後にすること。進路決めが本格的に始まるこの時期に担任が変わることは、間違いなく彼らに悪影響を与えることになる。以上」
「や、山田先生!」
自分を制止する佐久間校長を無視して、山田先生は校長室を勝手に出ていった。
その後、しばらくの静寂のあとで、ほかの先生たちも、ほぼ年齢順に無断で部屋から出ていく。誰一人として、自分の後方から聞こえてくる上司の声に耳を傾けようとはしなかった。新貝先生や三島先生といった表情豊かな人たちも含めて、全員揃って無表情という始末。聖職者と呼ばれたこの仕事に心の底から幻滅し、今にも転職先を探しに行きそうな顔である。
やがて校長室に残ったのは、佐久間校長と私だけになった。五月の二十五日以来の状況である。その時は内田のいじめを保護者が仕向けたということについての指示であり、それ相応の緊張感を持って立っていたことを覚えている。しかし今は違った。自分がたどることになる未来を知っているせいで、肩の力は抜け、落ち着いている自分がいた。
佐久間校長が言葉を投げかける。
「樋口先生は……」
今にも消えてしまいそうな、私の今後のあり方に関する質問だった。いちいち誰かに教えられなくとも理解できそうなものを。
「当然、私も教師を辞めますよ。そもそも私、この仕事あんまり好きじゃなかったですし。WordとExcelの知識を活かして、故郷の山口で適当な仕事でも見つけましょうかね」
私はそう言うと、佐久間校長に背中を向けて、廊下へ続く出入り口へと歩いていった。私がほかの七人と違ったのは、退室前に「失礼しました」と言ったことだった。
財布などの手荷物を取るために職員室に行くと、案の定室内は騒然としていた。とっくに帰った三年生の担当を除くほかの教員たちが、今日の異常事態の説明と翌日の体育祭の中止を、各家庭と町内会に電話で伝えていたのだ。まるで通信障害が起こったケータイ会社のコールセンターのごとく(そんなもの見たことないけど)、そこかしこから固定電話や携帯電話の呼び出しベルの音が鳴り響いている。
さすがにこれに罪悪感を覚えた私は、東側の出入り口近くにある自分の席からカバンを持ち出し、そそくさと自分の車に向かおうとした。
「樋口! なんてことしてくれたんだ、あんたらは!」
私を呼び捨てで怒鳴りつけたのは、固定電話の受話器を置いた西川先生だった。
二つ、私たちの懲戒免職は三年生の卒業後にすること。進路決めが本格的に始まるこの時期に担任が変わることは、間違いなく彼らに悪影響を与えることになる。以上」
「や、山田先生!」
自分を制止する佐久間校長を無視して、山田先生は校長室を勝手に出ていった。
その後、しばらくの静寂のあとで、ほかの先生たちも、ほぼ年齢順に無断で部屋から出ていく。誰一人として、自分の後方から聞こえてくる上司の声に耳を傾けようとはしなかった。新貝先生や三島先生といった表情豊かな人たちも含めて、全員揃って無表情という始末。聖職者と呼ばれたこの仕事に心の底から幻滅し、今にも転職先を探しに行きそうな顔である。
やがて校長室に残ったのは、佐久間校長と私だけになった。五月の二十五日以来の状況である。その時は内田のいじめを保護者が仕向けたということについての指示であり、それ相応の緊張感を持って立っていたことを覚えている。しかし今は違った。自分がたどることになる未来を知っているせいで、肩の力は抜け、落ち着いている自分がいた。
佐久間校長が言葉を投げかける。
「樋口先生は……」
今にも消えてしまいそうな、私の今後のあり方に関する質問だった。いちいち誰かに教えられなくとも理解できそうなものを。
「当然、私も教師を辞めますよ。そもそも私、この仕事あんまり好きじゃなかったですし。WordとExcelの知識を活かして、故郷の山口で適当な仕事でも見つけましょうかね」
私はそう言うと、佐久間校長に背中を向けて、廊下へ続く出入り口へと歩いていった。私がほかの七人と違ったのは、退室前に「失礼しました」と言ったことだった。
財布などの手荷物を取るために職員室に行くと、案の定室内は騒然としていた。とっくに帰った三年生の担当を除くほかの教員たちが、今日の異常事態の説明と翌日の体育祭の中止を、各家庭と町内会に電話で伝えていたのだ。まるで通信障害が起こったケータイ会社のコールセンターのごとく(そんなもの見たことないけど)、そこかしこから固定電話や携帯電話の呼び出しベルの音が鳴り響いている。
さすがにこれに罪悪感を覚えた私は、東側の出入り口近くにある自分の席からカバンを持ち出し、そそくさと自分の車に向かおうとした。
「樋口! なんてことしてくれたんだ、あんたらは!」
私を呼び捨てで怒鳴りつけたのは、固定電話の受話器を置いた西川先生だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる