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第2章 異世界攻略編
第21話 威嚇はこんなもんですか。
しおりを挟む『第一階層主、一日で撃破か!?』
大々的に冒険者ギルドに広告が掲載されたのは、俺達が初めてダンジョンに足を踏み入れた翌日の出来事だった。騒々しいロビーの人だかりを掻き分けて、俺達は受付から戻ってくる。
「金貨14枚っ!」
小金持ち確定。高揚感が溢れ出す。例の奴隷は金額25枚。『交渉術』を使えば、あと一日で稼げる額か?
「主、一躍有名人ですね」
「そうかもな」
チラチラとこちらを見てくる冒険者の姿。ギルドには守秘義務があって、冒険者の個人情報は厳格に秘匿される。つまり、俺が階層主を倒したという事実は、鮮明では無い。
だが昨日登録したばかりの新人が、翌日冒険者ギルドに階層主の換金をしに来たとなれば噂にもなる。
最も、それは俺達の実力を訝しむものだが。
「おいおい、そこの兄ちゃん。どんな手品を使ったんだ? どうせ熟練冒険者に寄生したんだろ?」
「何の話だ?」
「惚けやがって。今の素材、『巨大鬼』のドロップアイテムだろ!」
面倒な男に絡まれてしまった。スキンヘッドの大柄な男。武装は肩に提げた巨大な斧。何とテンプレな。
「こいつが優秀だからな」
「主。頭をくしゃくしゃしないで下さい」
隣にいたルナの頭を撫でる。
「なるほどなぁ」
ニヤッと卑しい笑みを浮かべる男。
もう何を話すかは想像に容易い。
「おい、そこの奴隷。不甲斐ない主なんて捨てて俺の元に来ないか? 他人の実力に縋るだけの雑魚じゃ釣り合わねぇ」
ピクッとルナの耳が僅かに揺れる。
「よく見たら可愛いじゃねぇの……俺が可愛がってやるからよぉ、昼も……夜も」
夜も可愛がるのは俺の役目だろう。
何を言っているんだコイツ。
「主が雑魚……? 頭大丈夫ですか、貴方」
「あぁん?」
ほら、ルナも喧嘩売り始めたし。
「主は雑魚以下ですよ。それでは雑魚に失礼かと」
「ちょっと?」
フォローする流れでしょうよそこは。
俺はズコッと足を滑らせた。
「という訳で、この子はな、俺を甲斐甲斐しく世話するのが大好きなちょっと変わった子なんだよ」
「何ですかその言い方は!」
という謎のやり取りを繰り返す俺達。
どうだ、これで話についてこれまい。
「ルナ行くぞ」
「はい。仕方ありませんね主」
「ま、待てッ」
まだ突っかかってくるのかコイツ。
「お前は騙されてるだけだァ……俺に乗り換えたらいい思いさせてやるぜ? まだ身体は未発達な様だが直ぐに"女"にしてやるよ。どうだ、今日の夜にでもベッドに───」
完全に性欲の化身じゃねぇか。真昼間から堂々と、しかもギルドの中で。ほら皆に見られてる……。
「私は主の温もりを感じられるだけで十分です」
ん、待て。なんか誤解を生む発言を……!
「昨晩も冷えた身体が火照るまで温めてくれて───」
「お前が寒いって言うから俺の布団の中に転がり込んで来たんだろうが。私冷え性なので~とか言ってさ」
「同じベッドの中で密着して───」
「ケチって一人部屋にしたしな」
「一夜を共にして───」
「一緒に寝ただけな?」
というか昨日はボス戦で体力は相当に疲弊していた。泥のように眠っていた寝込みを襲ってきたのはルナの方だ。
俺を抱き枕にして腰に手を回し、すぅすぅと安らかな寝息を立てていたのもルナ。
かく言う俺は、暑すぎて寝不足になった。
自称冷え性のルナは湯たんぽみたいに温かいのだ。
「くそが……既に手を回していたか。チッ!」
処○厨かよ。文句を吐きながら男は去っていく。
俺の名声を犠牲にして。
「ふぅ、威嚇はこんなものですか」
「おい何の話だ」
「こちらの話です」
ルナは主に女性冒険者をチラ見しながらふんっと鼻を鳴らす。好感度が命の俺になんて事をしてくれたんだ。
「お二人さん~!」
まるで飼い犬のように笑顔で走ってくる赤髪の少女。昨日死闘を共にしたシャルロットだ。先程の会話を聞いていたかどうかは知らないが、頼むから無視して欲しい。
「昨日はありがとっ」
「礼を言うのはこっちの方だ。ボス戦の後に助けてくれなかったら、どうなっていたか」
ノエルも遅れてやって来る。特に後遺症は無いようで安心した。「やっほ」と気の抜けた挨拶に手を上げて応えた。
「で、二人の同衾について詳しく」
「恥ずかしいですが……望むのなら♡」
「ノエル止めてくれ。ルナも掘り返すな」
ダメだ。この二人は劇薬過ぎる。
混ぜるな危険と注意書きを残すべきだろう。
「ところでシャルロット。今日は俺に何か用があって来たんじゃないのか?」
「あぁ、そうだった!」
忘れてたらしい話を俺へと打ち明ける。
「今日から私達二層に行こうと思うんだけど……」
俺の口角が密かに上がる。
来たな。
「一緒にどうかな?」
ギルド加入申請。
嗚呼、これ以上ない僥倖に感謝しよう。
「喜んでお断りします」
「喜んでお受けします」
「なんでだよ!」
勝手に断るルナに思わず突っ込んだ。
今更何を言いますか、とルナは溜息を零す。
「私に迷惑をかけるのは結構ですが、他所様にまで雑魚な主の面倒を見ろというのはあまりに横暴かと……」
「いやいやいや。俺、結構頑張ってるだろう?」
絶望からの起死回生な作戦の数々。
賞賛されて然るべき活躍のはずだ。
それに昨日の稼ぎは、『巨大鬼』の他に、三階層の魔物『幽霊』の魔石の換金額も大きい。下の階層に潜るにはどの道、小ギルドへの加入は必須だ。
ルナもそれは分かっているはずだが……。
「女の人が多い……」
何か別の懸念があるらしい。
俺は何もしないというのに。
「……分かったよ、ルナ。それじゃあこうしよう。とりあえず二階層までは限定的に仲間に入れてもらうってのはどうだ。それ以降はまた考えたらいい」
「はい、それなら……まぁ」
決まりだ。
二人のも確認を取る。
「勿論、それでオッケーだよ」
「ん。寧ろこっちがお願いする立場」
難なく了承が得られた。
「改めて、俺はレイ。でこっちがルナ」
「よろしくお願いします……」
「よろしくレイくん、ルナちゃん」
「ん。よろしく」
───ギルド《北極星》に参加します。
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