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第3章 異世界王国編
第48話 第三階層に巣食う者。
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「それで、シンシアちゃん。どうなのですか?」
俺への言及が一段落ついた頃。
アルマリアの興味はシンシアへとシフトした。
「どう、とは?」
「無論、貴女が刺された話です。貴女程の実力者が一方的にやられるなんて、相手は相当に腕が立つお方なのでしょうね。悠長に事を構えていてはまた……」
「……それは。相性が悪かっただけです」
「相性?」
シンシアは深く首を縦に振った。
「相手の職業は【死霊術師】。死霊を中心に使役する術師でした。私は三階層に呼ばれ、彼と決闘し……彼と戦う事なく負けたのです」
要するに、取り巻きに圧倒されたという事だ。
シンシアの「波動魔法」は魔法で物理に作用する、要するに物理属性だ。死霊と相性が悪いと言う発言自体には頷ける。
だが。
「もしかしてだが……その【死霊術師】は第三階層にいる全ての魔物を使役出来る、なんて言わないよな?」
俺は汗が垂れていくのを実感した。
シンシアは深く目を伏せて。
「第三階層は今や、一個の迷宮レベルの難易度ね」
その発言で俺は全てを悟った。
なんたる事か、シンシアを襲った奴は、第三階層を自らの能力で乗っ取ってしまったのだ。その【死霊術師】と事を構えるとは即ち、第三階層にいる全ての魔物と対峙する覚悟があるかと聞かれているようなもの。
最強の騎士が破れた理由。
それは相手がチート持ちだからに他ならない。
空はすっかり暗くなった。
街路には深い闇が落ち、照明が明るく道を照らしている。
「長居し過ぎましたね」
ぽかんと空を見つめてルナがぼやく。
「無言でお菓子を食いまくってた誰かさんのせいだろうな」
「それ以上言うと口を縫い付けますよ」
ピンと耳を立てて威嚇するルナに一瞬たじろぐ。
「貴方達、本当に仲がいいわね」
見送りに来たシンシアが俺達を見て呟いた。
「病み上がりなんだ、別に見送りに来なくても」
「ううん。私が助けてくれたせめてもの感謝の気持ちを態度で示しておこうと思ってね。改めて、ありがとう。おかげで今を生きられる」
こればっかりは偶然だ。
俺は万能チート持ちではないから。
けれど、感謝は素直に受け取っておこう。
「ああ。じゃあまたいつか」
「待って、レイ」
踵を返して立ち去ろうとした俺の肩を握る。
「まだ、何か?」
「そ、その……」
言いにくそうに口をもごもごする。
まるで恋する乙女のような表情と仕草に、隣にいたルナがきゅっと眉を寄せる。そう警戒する必要はないと思うけれど。
「もしレイが良ければ、《王国要塞》に入らない?」
「えっ……?」
思いがけない誘いだった。
俺は硬直して目をぱちくりと開閉する。
「貴方程の逸材を、このまま下級冒険者としてのさばらせておくのは勿体ない。だったら私の下について、徹底的に鍛えた方が、ひいては王国の未来の為。そして平和に繋がると思うから」
シンシア・オルデンはいつでも王国の為を想う。
それは彼女が、例のアルマリアと友人関係にあるからだけではなく、本当に彼女が王国の事を心から愛し行動している結果だと思う。
「それに、第三階層の件もある。アルマリア様も言っていたけれど、これ以上足踏みをしていたら相手が先に仕掛けてくるわ」
嬉しい誘いだった。
それにシンシアの意見も尤もだ。
俺が誘いを断る理由はないように思えた。
だけどその場合、シャルやノエルはどうなる?
冒険者として迷宮を攻略する夢はどうなる。
俺はそう簡単に冒険者という肩書きを捨てられるのだろうか。
俺は迷っていた。
決定するのは果たして俺か。
ルナにも判断を仰ぐ必要はあるだろうか。
その決断は、強制的にお預けとなった。
「危ないッ!!」
俺はシンシアに抱き着いて、押し倒す。
俺の後ろ髪がチッと裂けていった。
「な、なに……何が起こったの?」
「主、急にどうしたのですか!?」
全身の血が騒ぐ。
強烈な殺意と圧倒的な魔力量。
本物の強者が影の中から現れた。
「シンシア、敵だ。敵がいる……!」
「見えない、どこにいるの!?」
見えない? 嘘だろ、なんで見えないんだよ!
俺の目は確かに捉えている。
薄い輪郭だけだが、若い女性のシルエットがニヒルな笑みを浮かべている様を。実体があるのかないのか、その曖昧な存在の頭の上には。
-80
これまで一番の殺意を帯びていた。
「魔法『魔力浸透波』ッ!!!」
途端にシンシアが魔力を熾すッ!!!
ドクンッ!!!
まるで空気そのものが震撼したような衝撃が起こる。
シンシアの周りに現れたのは、薄い紫色に染まった膜のような物。それが徐々に広がっていき、遂には俺達全員に至るまで膜が覆い尽くす。
「視えた、確かにそこにいる。……こいつは」
シンシアがギリリと奥歯を噛み締める。
他の誰にも見えず、俺だけに見える存在。
アルマリアの発言がフラッシュバックする。
『精霊を見る目。文字通りの意味ですわ』
「精霊、なのか……?」
俺の問いに答えたのはシンシア。
騒ぐ心臓を抑えながら辛うじて答える。
「ただの精霊じゃない。奴は……《神級精霊》よ」
俺への言及が一段落ついた頃。
アルマリアの興味はシンシアへとシフトした。
「どう、とは?」
「無論、貴女が刺された話です。貴女程の実力者が一方的にやられるなんて、相手は相当に腕が立つお方なのでしょうね。悠長に事を構えていてはまた……」
「……それは。相性が悪かっただけです」
「相性?」
シンシアは深く首を縦に振った。
「相手の職業は【死霊術師】。死霊を中心に使役する術師でした。私は三階層に呼ばれ、彼と決闘し……彼と戦う事なく負けたのです」
要するに、取り巻きに圧倒されたという事だ。
シンシアの「波動魔法」は魔法で物理に作用する、要するに物理属性だ。死霊と相性が悪いと言う発言自体には頷ける。
だが。
「もしかしてだが……その【死霊術師】は第三階層にいる全ての魔物を使役出来る、なんて言わないよな?」
俺は汗が垂れていくのを実感した。
シンシアは深く目を伏せて。
「第三階層は今や、一個の迷宮レベルの難易度ね」
その発言で俺は全てを悟った。
なんたる事か、シンシアを襲った奴は、第三階層を自らの能力で乗っ取ってしまったのだ。その【死霊術師】と事を構えるとは即ち、第三階層にいる全ての魔物と対峙する覚悟があるかと聞かれているようなもの。
最強の騎士が破れた理由。
それは相手がチート持ちだからに他ならない。
空はすっかり暗くなった。
街路には深い闇が落ち、照明が明るく道を照らしている。
「長居し過ぎましたね」
ぽかんと空を見つめてルナがぼやく。
「無言でお菓子を食いまくってた誰かさんのせいだろうな」
「それ以上言うと口を縫い付けますよ」
ピンと耳を立てて威嚇するルナに一瞬たじろぐ。
「貴方達、本当に仲がいいわね」
見送りに来たシンシアが俺達を見て呟いた。
「病み上がりなんだ、別に見送りに来なくても」
「ううん。私が助けてくれたせめてもの感謝の気持ちを態度で示しておこうと思ってね。改めて、ありがとう。おかげで今を生きられる」
こればっかりは偶然だ。
俺は万能チート持ちではないから。
けれど、感謝は素直に受け取っておこう。
「ああ。じゃあまたいつか」
「待って、レイ」
踵を返して立ち去ろうとした俺の肩を握る。
「まだ、何か?」
「そ、その……」
言いにくそうに口をもごもごする。
まるで恋する乙女のような表情と仕草に、隣にいたルナがきゅっと眉を寄せる。そう警戒する必要はないと思うけれど。
「もしレイが良ければ、《王国要塞》に入らない?」
「えっ……?」
思いがけない誘いだった。
俺は硬直して目をぱちくりと開閉する。
「貴方程の逸材を、このまま下級冒険者としてのさばらせておくのは勿体ない。だったら私の下について、徹底的に鍛えた方が、ひいては王国の未来の為。そして平和に繋がると思うから」
シンシア・オルデンはいつでも王国の為を想う。
それは彼女が、例のアルマリアと友人関係にあるからだけではなく、本当に彼女が王国の事を心から愛し行動している結果だと思う。
「それに、第三階層の件もある。アルマリア様も言っていたけれど、これ以上足踏みをしていたら相手が先に仕掛けてくるわ」
嬉しい誘いだった。
それにシンシアの意見も尤もだ。
俺が誘いを断る理由はないように思えた。
だけどその場合、シャルやノエルはどうなる?
冒険者として迷宮を攻略する夢はどうなる。
俺はそう簡単に冒険者という肩書きを捨てられるのだろうか。
俺は迷っていた。
決定するのは果たして俺か。
ルナにも判断を仰ぐ必要はあるだろうか。
その決断は、強制的にお預けとなった。
「危ないッ!!」
俺はシンシアに抱き着いて、押し倒す。
俺の後ろ髪がチッと裂けていった。
「な、なに……何が起こったの?」
「主、急にどうしたのですか!?」
全身の血が騒ぐ。
強烈な殺意と圧倒的な魔力量。
本物の強者が影の中から現れた。
「シンシア、敵だ。敵がいる……!」
「見えない、どこにいるの!?」
見えない? 嘘だろ、なんで見えないんだよ!
俺の目は確かに捉えている。
薄い輪郭だけだが、若い女性のシルエットがニヒルな笑みを浮かべている様を。実体があるのかないのか、その曖昧な存在の頭の上には。
-80
これまで一番の殺意を帯びていた。
「魔法『魔力浸透波』ッ!!!」
途端にシンシアが魔力を熾すッ!!!
ドクンッ!!!
まるで空気そのものが震撼したような衝撃が起こる。
シンシアの周りに現れたのは、薄い紫色に染まった膜のような物。それが徐々に広がっていき、遂には俺達全員に至るまで膜が覆い尽くす。
「視えた、確かにそこにいる。……こいつは」
シンシアがギリリと奥歯を噛み締める。
他の誰にも見えず、俺だけに見える存在。
アルマリアの発言がフラッシュバックする。
『精霊を見る目。文字通りの意味ですわ』
「精霊、なのか……?」
俺の問いに答えたのはシンシア。
騒ぐ心臓を抑えながら辛うじて答える。
「ただの精霊じゃない。奴は……《神級精霊》よ」
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