【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

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第1章 出会い

第9話 お出迎え。

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 その日の夜、俺はくたくたになりながら我が家への帰路に着いた。
 帰って来た時に自分の家に明りが灯っていたならば、もしや泥棒でも入ったのかなどと考えてしまうがが、現在の俺はごく当たり前の光景に少し頬を緩めた。

「ただいまー、ああくそ、疲れたじゃないか」
「おかえり、グラスっ」



 玄関で俺を出迎えたのは、エプロン姿となったラケナリアだ。お玉と菜箸を両手に持つと、いくら魔族とはいえ良妻にしか見えないマジックだ。これはラケナリアの魔法か何かか?

「失礼な事を考えているセンサーがビンビン反応しているの」
「気のせいじゃないか」
「それより遅かったわね、Eランク冒険者にはちゃんとなれたのかしら」

 昇格試験を受けろと俺に諭したのは他でもないラケナリア。俺が嘘をついてどこかで道草を食っていたのではないかと心配しているようだが、問題ない。

「ほら、俺の冒険者証。いろいろ手続きとか、魔物討伐が遂に解禁されるからその注意説明とか、時間がかかったんだよ。そのせいですっかり暗くなっちまった」

 俺はEランクと書かれた冒険者証をラケナリアに向かって放り投げる。両手が塞がれていた分、「わわわ……っ」と軽くお手玉しながらそれを受け取った。

「す……すっ」
「酢? 買ってこようか」
「凄いわ、グラスっ! まさか一発で合格するなんてっ!」
「別に凄くはないっ、AランクやSランク昇格ならともかく、Eランクだぞ俺」
「それでも、昨日の今日で本当にとってしまうなんて」

 玄関でいつまでも立ち話をしている訳にはいかないので、俺はリビングまで荷物を運んで背伸びした。すると気が付いたのだが、心なしか前より部屋は片付いており、掃除が行き届いているようだった。

「昨日言ってた『刀』、ちゃんと使えたかしらっ!」

 壁に持たれかけさえていた黒鞘を纏う刀に目を向けて、ラケナリアは俺に問う。

「まあ、そこそこだ。さて、俺は約束通り昇格した。だからそろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 俺が冒険者として成り上がる事が、人族の理解に繋がるという理由を」

 話は前日、人族を好きにさせてみせると自信満々に豪語した後へと遡る。ラケナリアは、俺に一つの提案を持ちかけて来た。まず初めに冒険者の昇格を目指せ、と。

「確かにグラスは約束を果たしたわ。だから私も、グラスにちゃんと説明しなくちゃね」

 そして、俺が見事Eランクへの昇格を果たしたらその理由を教えてくれるという物だった。

「その理由は、至って簡単な理由。例えばだけど、グラスはもし私が今グラスに攻撃を仕掛けてたら、グラスは何をするかしら」
「何って……そりゃあ抵抗するんじゃないか?」
「ふふっ、随分柔らかい言葉を使うのね。じゃあ、私がグラスを殺そうとしたら?」
「生き残る為なら……その、そういう選択もあるかもしれない」

 俺を質問攻めにして、楽しんでいるようにも見えるラケナリアに、俺も我慢ならず聞き返す。

「つまり何が言いたい」
「グラスは、一つ勘違いをしているの。冒険者は魔族を殺す為に戦っていると思っている事」
「違うのか。俺はてっきり、魔族を殺して報酬を貰うものだとばかり」
「確かにそういう一面もあるかもしれないわね。でも、そもそも冒険者ギルドが発足された理由をグラスは正しく認識しているのかしら」

 冒険者ギルドが、発足された理由。
 確かに考えたことが無かった。魔物を殺し、報酬を得る。それは冒険者側のメリットで、運営する団体が何かメリットを得られるものではない。

「商売は全てWINWINな関係において、契約は成り立つもの。冒険者ギルドの起源は、もっと別のところにあるわ、ヒントは平和維持」
「そうか……慢性的な王国騎士不足か。度重なる人族と魔族の争いは、国の兵力を削いでいく。その為に、別の防衛機関として冒険者ギルドは発足した」
「そう。もともとは、足りなくなった騎士の為に、民間人から兵士を募ったのが始まり。それが今では、命を懸けた分多くのお金が手に入る博打系の職業へ転換したって事よ」

 なるほど。俺は、ようやく真相を掴んだ気がした。

「さっきお前が言った、お前が俺を襲ったらって質問の意味が理解できた。つまり、冒険者の職の本質は、魔物や魔族が人族の街に牙を剥いた際の正当防衛だと言いたい訳だ」
「そうね。私だって、お父様やお母様を殺そうとする輩なら、例え信頼する人族であっても容赦しないと思うの。決して、殺したいからではなく……」
「守るために、家族や恋人、大切な人の安寧を保つために、戦っている……か」

 そう思えば、冒険者ギルドもまた、少し違って見えてくる。

「ちなみにさっきの情報源は何だったんだ?」
「父の書斎にあった、ある冒険譚だったわ。人族の言葉で書かれていたから、必死に字の勉強をしてようやく読めたのだけど……当時の私も思わず唸った記憶があるわっ、今のグラスみたいに!」

 俺は言い返せず、押し黙る。

「それで俺を冒険者に向き合わせるように仕組んだと」
「仕組んだとは心外ね、お手伝いをしたの。魔族相手ではなく魔物相手なら、きっとグラスの心も痛まないでしょう? そうやって討伐依頼をこなして、冒険者を傍で実感する事でいい影響が得られると思ったの。勿論、全然戦えないだろうからまずは、Eランク冒険者になるまで必死に武器の練習とかしてもらおうと思ったのだけど」

 そう言って、俺と刀を交互に見る。


「びっくりしちゃったっ」


 あまりに可笑しな顔をするので、思わず破顔する。彼女の持つ好奇心は、結果として長年燻り続けた俺をこうもあっさりと動かした。やはり、最初に感じた影響力は確かなものだ。

「……そろそろ焦げるからキッチンの火を消しておけ」
「ええ!? あれっ、変な煙が……っ! あー! 輝き蝶の羽が焦げてるわ!?」
「おい、変な物また入れてないだろうな」


 ぱたぱたとキッチンに戻り料理を再開したラケナリアの後ろ姿を見やりながら、俺は部屋着に着替える為別の部屋へと映った。Eランク冒険者、明日からは俺の知らない景色が待っている事だろう。
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