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第2章 神隠し事件
第19話 マーナガルム討伐作戦。
しおりを挟む次の日、俺達は早速魔物の住処を探すのに全力を賭した。無論、人が誘拐したという線がゼロではないが、ルスカスが事前に見つけたという手がかりとラケナリアから聞いた情報から、魔物の仕業と断定した。
「魔物の名前は、マーナガルム、四足歩行の狼型魔物。基本は群れで行動し、繁殖期には子供を持って子育てをするという。しかし厄介なのは稀に人族の子供を自分の子供だと勘違いを起こし、巣に持ち帰る習性があるらしい」
「マーナガルム……知らない魔物だね」
当たり前だ、と俺は言う。
「それは、魔界でも深部にしか居ないという推奨難易度Bの強敵。更に厄介なのは、奴らは一体が殺されると、仲間を呼ぶ習性があって、そうなればSランク冒険者ですら単独撃破は難しいとされる程だ。故に、一撃で全部を屠る必要がある」
俺の言葉に戦慄した、パーティーメンバー。
「そんな……」とスターチスは既に意気消沈気味だ。
「大丈夫だ、俺に手がある。もし会敵したら誰でもいい、魔物の進行を食い止めてくれ。それを横から俺がぶった斬る」
「大丈夫なのっ!?」
「そんな顔するなコットン。多分いける」
多分じゃダメだよ~っ、と半分泣きながらも今更全員臆した様子はなく、巣を見つける事に奔走した。
□■□
夕方が近づく頃、街から少し離れた自然の中に、地形の隆起と沈降から出来た洞窟に魔物の気配があった。
「いよいよだね……」
「ねぇスタッチ、顔暗いよ。そんなんじゃ倒せない」
「分かってるさプロテア……でも、もし洞窟の中にランタナがいなかったらと思うと……くっ。ここまで来たらやるしかないか」
「覚悟を決めろよっスターチス。あたしも全力でぶっ倒すって腹括って来たんだからさっ!」
冒険者の団結力……俺はこの二日で十分理解出来た。
この絆は誰がどう見ても本物、決して魔族を殺したいから等という理由では無いのは確かだった。
「さあ、行こうぜスタッチ。弟が待ってる」
「ああ、頼むよグラジオラス。君が頼りなんだ」
差し出した手をスターチスはしっかりと握る。
よし、この調子なら大丈夫だ。
俺が先頭、後続にスターチスとプロテア。最後尾からはコットンとルスカスが追随する。俺達にとって初めての討伐依頼。興奮と不安が入り交じる感情で地面を踏み鳴らした。
俺達の足音が木霊する。得物を握り、目を凝らす。
「……すぅぅっ」
息を吸う。この後、吐き終わった瞬間───。
「突撃!」
曲がりくねった道の向こう側、その敵は現れた。
「マーナガルム……数は、四体!?」
「多い……っ、行動を防ぐって言っても一人一体でも、グラジオラス以外全員だ。無茶だよ……ッ!!」
四体を一撃で倒す等、不可能に近い芸当だ。逃げ出そうとも考えたがその逃げ腰の姿勢は、魔物達の奥に眠る一人の少年を前にして、考えが真逆にシフトする。
「ランタナッ……!!」
「くそ、ビンゴか……最悪だっ」
「どうする、グラス。一旦引く!?」
「うわ、うわ……絶対無理だよあんなのっ」
「グラジオラス、どうすんの、早く決めて!」
俺は───。
その時、指に装着した銀のリングが目に留まる。
ラケナリアから貰った指輪。
「ここで逃げて……何が冒険者だ。俺は、仲間を守る為に冒険者として生きる為にこの刀を振ると決めた」
俺の中に蟠る人族への忌避感を一旦捨ておき、今の俺は冒険者グラジオラスとして仲間の矛であると決めた。
「……問題ない、作戦に変更無しだ」
出来ると一度でも感じたなら貫き通せ。
俺は、俺の全力を、この一撃に秘めるのみ……!
「皆、頼むッ!!」
「ああ、もう。分かったし! 死んだらグラスを絶対呪ってやるからね、マジで!!」
「私、一秒くらいしか持たないからっ!!」
「スターチス、気合い入れてよっ!」
「それはこっちのセリフだよルッスー!!」
半ばやけくそで全員吶喊した。接敵した瞬間、認識したマーナガルムは強靭な牙を剥き出しにして噛みつき攻撃を仕掛ける。しかしその行動は全員が既に予想していたもので、得物をその間に割って入れた。
「うわぁ、怖い怖い怖い……、早くっ!」
コットンらに急かされるように俺は側面へと移動した。
1列に並ぶ場所、急所を狙える場所。俺の斬撃が、一度に四体を絶命させうる最高の地点にて刀を取り出し、鯉口を切る。
「───【神装派・第一秘刀】」
皆、ありがとう。俺は、最も信頼するその技の発動を確認するや否や、神速の捌きで刀を振るう。
「《一閃華》ッ!!!!」
不可視の斬撃が虚空を舞う。
その斬撃に触れた物は、元より接続されていたという概念すら一蹴し、深く再生し得ない傷を負わせる。
一刀にして、放たれた物理限界の先。
その凶刃は、マーナガルムの命を刈り取る。
一体目、首をもがれ即死。
二体目、これも易々と切り裂き即死。
三体目、鈍い音と共に辛くも死亡。
四体目、勢いの削がれた斬撃は、皮膚に着弾し……、
「死なない……っ」
ゾッと血の気が引く感覚。魔物は未だ死んでいない、殺しきれなかった。俺の斬撃は、三体目までを屠った時点で威力の大半を削がれ、即死に至らしめる程の威力を失った。
猶予はない、次なる攻撃を放つ必要がある。
しかしどうやって。四体目までは距離があり、今の俺の位置からだと攻撃は通らない。
四体目の魔物を抑えているのは、誰だ。
「……スターチス!」
俺は無心で、俺の刀を放り投げた。
間に合うかは分からない、しかしこの事件に唯一終止符を打つ事が出来るのは現状彼を置いて他にいないのだ。
「やれっ!」
俺の刀は一直線に彼の袂まで向かい、無事に受け渡される。
俺の意志に気が付いたスターチスは、空いた片腕で刀を持ち上げ振りかぶった。魔物は出来た傷に未だ声を出せないでいた。
「今だっ」
「皆、ありがとう……僕は世界一、幸せ者の───」
スターチス……花言葉は、"変わらぬ心"。
決めてくれ、スタッチ。今のお前は、最高に……。
「───冒険者だァァァッ!!!」
振り下ろす。彼の決意が込められた懇親の一撃。
俺の刀は、スターチスの意志を乗せて、マーナガルムの首を深々の突き破った。
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