20 / 43
第2章 神隠し事件
第20話 ラケナリア失踪?
しおりを挟む「お疲れ様でした、グラジオラスさんっ」
すっかり日が暮れ、どこかで鈴虫が鳴いている。全身に疲労が溜まり歩くのすらままならない状況でギルドの扉を開けると、若々しい女性の声が聞こえてきた。
リーリアだ。冒険者ギルドの終業時間ぎりぎりまで俺達の帰りを待っていたらしい。揃いも揃ってボロボロの俺達を決して誹る事無く、心底安心したように胸を撫でおろす。
「ほら、グラジオラス。あれを見せてやりなよ」
スターチスが俺の肩を叩いて、例の物を催促する。俺は、懐から牙を三つ取り出した。
「これ。討伐部位です」
それだけで全てを察したらしい。口元を覆って目を見開いている。俺とその魔物の牙を見比べながら、「これを貴方達が……!?」と震えた声で呟いた。
さて後は、虚構の真実を告げるとしよう。
「今回の事件は……マーナガルムという魔物の仕業でした」
□■□
俺達は全責任を魔物の仕業として真実を隠蔽した。少なくともスターチスに罪が被るのは避けたいと考えたのは、俺達パーティーメンバーの総意だ。確かに嘘に巻き込まれたとはいえ、マーナガルムの討伐報酬は、これまでの報酬とは比べ物にならない額、思わぬ収入に皆は湧き上がっていた。
ちなみにスターチスの弟、ランタナは命に別状はなかった。元々、獲物として誘拐されたのではなく育てる対象と勘違いしての誘拐だ、ぞんざいに扱う事はないだろうとラケナリアは予想していた。他二人は、スターチスの祖父の家で匿っていたらしい、祖父の監視下とは言え、二人生活していたオルビス家とヴァルガリス家の子供達はお付き合いを始めていたとかなんとか。度々隠れて会っていたという話は本当だったらしい。
「みてみて銀貨がこんなにっ、装備も一新しようかな!」
俺が事件を振り返っているのを他所に、プロテアは金が詰まった麻袋を持って飛び上がっている。
「グラジオラスさん、本当によかったの? 魔物は大方グラジオラスさんが大体倒したのに」
「そうだよっ! グラジオラスがいなかったら普通にヤバかったよね」
コットンが不安げに俺の表情を伺った。それはルスカスも同じようで、一人浮かれていたプロテアは僅かに顔を赤らめながら、こほんっと咳をする。
「べ、別にお金が欲しかったわけじゃないんだけどね」
「プロテアちゃん……全然隠せてない」
俺は、コットンの気遣いに首を横に振る。
「あの魔物は俺一人では決して倒す事は出来なかった。みんなが引き付けてくれていたからこそ、すんなりと倒す事が出来たんだ。だから報酬は等分だ」
「まあ、そこまで言うなら貰ってあげなくはないかも?」
「ははは……だからプロテアちゃん。グラジオラスさんがいいなら、分かった。他の二人もそれでいい?」
「勿論だよっ」
「うん。だが、お礼だけは改めて言わせてくれ、グラジオラス。本当にありがとう」
スターチスは、何度目か分からない礼を告げ、そのまま解散の流れになった。各々久しぶりの自宅で、数日の疲れを癒すつもりだ。俺も手を振って別れる。
「さてさて、ラケナリアも待ってる頃だろうし早く帰らないとな」
俺は急いで自宅へと戻った。既に日付も変わりそうな頃合い。ラケナリアは眠っているだろうか、と俺は考えながら玄関の前へと佇む。部屋の明かりはない、やはり寝ているのか。
鍵がかかっている。夜中の用心も怠っていないらしい。
「ただいま」
部屋に入ると、自覚していなかった全身の疲労が一気に押し寄せる。眠気も更に重なって、ふらふらとした足取りでラケナリアがいるであろう寝室近くまで立ち寄った。
「あれ……」
しかし、おかしかった。
部屋の明かりをつけた。寝室のドアは半開き、そして中には何の気配もない。
「ラケナリア……?」
ざわつく心臓を押さえつけ、俺はベットの近くに立ち寄った。
やはり、もぬけの殻。
他にも見渡す。しかし、部屋の構造は至ってシンプルで隠れられるような場所はない。
まさか、と思いつつも俺は一つの結論を出した。
ラケナリアが失踪した。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる