【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

TGI:yuzu

文字の大きさ
22 / 43
第3章 冒険者ギルド

第22話 ラケナリア、冒険者ギルドへ。

しおりを挟む
「この人とパーティーを組むわね?」

 それは、地獄と形容してもまだ生温いドロドロに溶けたマグマに身を投げるような過酷で熾烈な現場だった。

 火花を幻視する程の強烈な視線が重なり合う。
 一方が試す様な目で相手を見て、一方が心底警戒する様な目付きで相手を睨み付けている。なるほど、これが世に聞く『修羅場』と言うやつなのだと理解した。

「もう一度いいます、お断りします」
「なんでかしら。私はこの人と組みたいと思ったから組むのよ。禁則事項には触れていないわよね」
「それはお互いの合意の上であれば、の話ですが」

 魔族の娘ラケナリア。
 冒険者ギルドの受付嬢リーリア。

 街でも一二を争う美少女の二人が、ここまで険悪さを隠そうともせず言い争う未来を誰が予想しただろうか。

「私はグラジオラスさんの事を誰よりも見てきた自信があります。彼はFランク冒険者として功績を上げ続け、最近になってようやく軌道に乗ってきた所なのです。それなのに、貴女のような人が彼を邪魔していい理由にはなりません」

「邪魔? どこが邪魔なのかしら」

「貴女は、今日冒険者ギルドに加入した新人でしょう。新人冒険者専用の依頼はこちらが用意しますし、彼の手を煩わせる必要は無い。まして、手を借りようなんて言語道断です」

「ふふっ、違うわ。これからずっとパーティーを組んで"協力"しようと思っているから。その場しのぎに手を借りる、なんていうつもりはサラサラないの!」

「余計タチが悪いじゃないですかっ!!」

 あーだめだ。収拾がつかねぇ。
 事の発端はラケナリアが冒険者になりたいと言い出した事だった。恐らくは俺が彼女を一人にしすぎたのが問題だ。

「ねぇ、グラス。いいでしょ?」
「ぐ、グラス? グラジオラスさんをそんなあだ名でっ」

 リーリアの美貌が僅かに歪む。いつもはクールというか無表情なだけに、俺はそれを見逃さなかった。どうやらラケナリアの方が一枚上手らしい。

「まぁ……別にいいけど。呼び方ぐらい好きにしていい」
「当たり前よ!」

 嬉しそうな顔を見せるラケナリア。ただ言っておくが当たり前ではない。俺を舐めてるのかこいつ。

その笑顔を見た瞬間、リーリアの顔が絶望に染まった。

「……えぇと、つまり……どういうことでしょうか……」
「何がだ?」
「だって、あの人は……」

 そこまで言って、ようやく気付いたのかリーリアがハッとした表情を浮かべた。

「まさか、恋人同士とか!?」
「んなわけあるか」

 即答すると、今度はリーリアがホッと胸を撫で下ろした。一体何を考えているんだコイツは……。
 しかし、これで一つ分かった事がある。
 やはり、彼女は勘違いしているのだ。
 
「リアは親戚みたいな物だ。だからリーリアが考えているようなやましい関係じゃない。これは誓う」
「やましい関係って何かしら。ねぇ何かしら」

お前は本当に黙っとけ。

「私気になる。気になるわ」
「ええい、離せ。という訳で俺はこいつの面倒を見にゃならん。Fランク冒険者のクエスト内容は誰よりも俺が理解している。だからリーリアは心配しなくていい」
「そう、ですか?」
「ああ。早くこいつもEランクに上げてやらないとうるさいと思う。付き従った方がこの際楽かもしれないな」

という訳で俺はラケナリアのクエストに付き合う事になった。夕方以降はコロッケ屋のバイトがあるそうなので遅くまでするのはNGだ。体力も考えて頑張る事にした。

薬草採取や捜し物系のクエスト。
攻略方法を熟知している俺は次々と解決の糸口を手繰り寄せる。ラケナリアは目を輝かせて「凄い凄い!」と何度も褒めてくれた。自己肯定感が高まるのはいい事だが限度があるな。

このままでは俺が天狗になってしまう。

そうした毎日を約一週間。
のんびりと時間をかけながらこなして行った。


□■□


「最近かなり字が読めるようになってきたの」
「逆に読めてなかったのか……?」

暫くたったある日、衝撃的な発言を聞いた。

「私は人族の言葉をそれはもう勉強したわ。お陰で魔法もなしにこうして話す事が出来る。だけどね、グラス。文字を完璧に理解するのは話す以上に難解なの」

なるほど。俺は半分位の理解で頷いた。

「解析魔法もなしに文字を判読するには、長い月日がかかる。でも遂に私はそれを乗り越えた。私は、魔法なしに文字が読めるようになったのよ!」
「二週間だよ。長い年月」

素直に凄いのだが。
大々的に言うものだから思わず突っ込んでしまった。

「そして今日……Eランク冒険者に昇格します!」
「おー。昇格試験頑張れ」
「見に来てくれるかしら」
「ん、ああ。そうだな一応見ておいてやるよ」
「そう、ふふふ。なら俄然やる気が出るわね」

そういえばこいつの実力を実際に見た事はなかったな。思えば転移魔法だったり、認識阻害の魔法、解析魔法、魔道具生成等多種多様な才能を発揮してきたラケナリア。

ただ、殊更戦闘においての実力はまるで知らない。

「ま、まあ上手くいかなくても落ち込むなよ」
「そうね。手加減できるかしら」

既に相手の心配をしているぞこいつ。

「じゃあ、行くわよ」
「遠足を控える小学生か。はいはい、焦るな焦るな」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...