【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

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第3章 冒険者ギルド

第24話 鉱山の探索。

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 肌寒い洞窟の中。多種多様な魔物と希少な鉱石が多く存在するその地は、まさに秘境であった。二人分の靴音が、独特の静寂の中に響き渡る。

 足元さえ覚束無い薄暗さは、心理的に俺の足を速めた。もしかしたら既に背後に敵がいるかもしれない、そんな恐怖が更に緊張を煽って、神経が冴え渡る。

「速いわグラス。トイレを我慢しているのね」
「違ぇよ、俺はガキか!」

 ここに、緊張とは無縁の存在が一人。
 ピクニック気分で調査に来たのは、我が家の居候。魔族の娘ラケナリア嬢である。

 上下ジャージという色気や尊厳が皆無の服装で、額に汗一滴流さず平然とした態度で淡々と歩を進める。

「体力あるな。魔族だからか?」
「これでもバイト戦士ですからね」
「なるほど。それが開始早々休暇を貰ったやつのセリフか」
「か、掛け持ちだから仕方ないでしょう。本分はあくまで冒険者なのよっ、優先するのは当たり前だわ!」
「そうかそうか。その事をおばちゃんに話したら、大量のコロッケを賄いで貰った事についてはどう言及する」
「……本当にご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「よろしい。人の好意をずぶずぶに受けたまま、それを当たり前とするのは人の理に反するからな。帰ったらちゃんと礼を言っておくんだぞ」
「10連勤は覚悟してるわ……っ」

 まさかの身体で支払うタイプ。
 うむ、身を粉にして働いてくれ。


 □■□

 鉱山は少し前まで人の触れた跡があった。
 トロッコのレールであったり、仮説基地らしき物もある。しかしそれは既に傷んでおり、所々地面が抉れた跡がある。恐らくは魔物の出現と同時に退却したのだろう。

「俺が前衛。リアは後衛な」
「それじゃあグラスだけが戦うだけになってつまらないわね。五分毎に交代とかどうかしら」
「心配だ、ならまだ可愛げがあったのに。つまらないって」

 俺達は仮にもパーティーだ。その編成は時に命運を分けたりする。

「それじゃあ戦闘ごとに」
「リア。敵が来た」

 岩壁を崩しながら、大きな巨体が現れる。牛のようなシルエット。視界が悪くて尚も、その発達した筋肉量が伺える。事前に聞いていた情報から照らし合わせるとあれは、

「アルデバラン。A

 遭遇して一発目がこれだけの大物とは。

「安心してグラス。これだけ狭い坑道だと、相手は機動力が活かせない。突進を主とした単調な攻撃になるはずよ。そこを仕留めるの」

 俺は刀を構えた。

「グォォオオオオ!!!!」

 すごい迫力だ。咆哮だけで砂塵と共に吹き飛ばされそうな衝撃が襲った。あれだけの巨躯、単純な力比べでは奴に軍配が上がるだろう。

 故に一撃、最初の接触で仕留めてやる。

「魔法───」
「ッ」

 ラケナリアが魔法を発した瞬間、俺は前に飛び出した。戦闘中になった瞬間、お互いが何を考えているのかが、糸を手繰るが如く簡単に分かっていく。

「【業火イグニス】ッ」

 俺の背中から赤き光が迫る。
 俺は転がって、アルデバランの股下を駆け抜けた。

「グォォ!?」

 その巨体が邪魔をして、避けられない。
 牽制の一撃はしっかりと懐に入る。

「【神装波・第一秘刀】《一閃華》」

 不可視の刃が、アルデバランの脛へと着弾する。
 膝を折った、チャンス!

「はぁぁぁあ……」

 ラケナリアが飛び出す。
 黒稲妻がスパークして、高密度の魔力が漏れる。

 あ、いやそれオーバーキル……

「【死の宣告デス・センテンス】ッッ!!!」

 アルデバランの肉体が文字通り蒸発した。

 絶命した魔物は、溜め込んだ魔力を放出しながら、光の残滓を残して消え去った。強力な魔物が産み落とされた事は、俺達にとってもイレギュラーだった。ただ、やはりこうも狭いと、まだ身軽な俺達に分があった、それだけの事だ。

 その時、俺の右手から淡い蒼の光が迸る。

「ん? なんだこれ」

 そうだ。俺は、例の指輪を付けてきたんだった。
 Eランク初のクエストの前、ラケナリアに作ってもらったという未知の指輪。万が一を想定して、俺は今回これを右手の薬指に装備している。

 アルデバランの消失に。いや、高濃度の魔力に呼応してか、指輪は一定のリズムを刻みながら光り続ける。俺が呆然としていると、同じく驚愕を隠せないという風のラケナリアが。

「嘘、そんな……?」

 そう口にした。訳が分からない。

 ズキン。鋭い痛みが頭を襲った。
 唇を噛んで、堪える。視界がぶれた。

……

 分からない。何を言っているんだ。
 ぐらぐらと上体が揺れる。何が起きたんだ。


「グラス!? 避けてッ!?」

 地面に罅が入る。俺は避けようと身を捩る。
 だが、絶え間ない頭痛が俺の回避行動を阻害した。

「ぐっ」

 眩暈がする。動けない。
 次の瞬間、俺は空中に投げ出された。
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