【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

TGI:yuzu

文字の大きさ
29 / 43
第3章 冒険者ギルド

第29話 モンスターハウス。

しおりを挟む
 俺はずっと、冒険から逃げていた。
 Fランク冒険者という立場に甘えていた。

 戦闘を避け、魔族と敵対する事を嫌った。
 ラケナリアはそんな俺を糺してくれた。

 だから今俺はここにいる。
 だから今俺は戦っている。

 俺は少し後悔した。もっと身体を動かしておけば。
 せめて有事の際に備えて身体を鍛えておけば、こうはならなった。

「あああああああああッッ」
「やああああぁぁッッ!!」

 俺とカトレアは共に吠える。
 武器を持ち、魔物と対峙している。

 命と命のやり取りをしている。
 俺達が死ねば、その死体は決して見つからないであろう奥地で、人知れず消えてしまうのではないかと、底冷えする程の恐怖を常に抱きながら剣を振る。

 金属が軋む。命が擦り減る。
 鼓動が早まる。汗が滲み出る。

 カトレアと俺の背中がぴったりとくっついた。
 人肌の温もりに僅かなる安堵と安らぎを得た。

「はぁ、はぁぁ、大丈夫か、カトレア」
「お兄さんこそ、息が上がっていますよ」

 再び強く、石畳を踏んで前へ躍り出た。剣を振る毎に魔物が光の残滓となって消え失せる。魔石がぽとりと石畳へと落ちていく。俺達はそんな様子を見向きもせずに、次の魔物に剣を向けていた。

 どうしてこうなった───?
 思考が加速し、時が引き延ばされていくのを感じながら一部冷静な俺は回想を始めていた。といってもという事態はある程度想像出来ていたかもしれない。

 ダンジョンのお約束、

 □■□

 無限回廊を抜けて以降、俺達は順調にダンジョンを攻略していった。様々なトラップが行方を阻んだが、ピンチの時に発揮される身体能力は、自分でも驚くくらいだ。死にたくない、という人族が本来持つ生存欲求がここにきて俺を一段階上の位へ昇華させているのだ。

「お兄さん。見てください」
「いかにもボス部屋って感じだな」

 いくつもの難題を掻い潜った後辿り着いたのは、再び巨大な一室。扉を開け中を開けるとそこには何もいない。もしかするとドラゴンがいるかもしれないという期待は一瞬にして掻き消えた。

「……何かいますか?」
「分からない。こうも部屋が暗いと」

 一歩一歩前に進む。
 敵はいない、気配もしない。
 いや、微かにはする。ただここにはいない。

 どこにいるんだ……?

「お兄さん……」
「絶対に離れるなよ」

 コツ、コツ……コツ。

「?」

 ガコン。
 

「は?」
「え?」

 予兆なく。あるべき床が消失した。
 重力に引き寄せられ、俺達は落ちた。

「うわあああぁぁああ!?」
「きゃぁああああああ!?」

 俺は咄嗟に受け身を取る。意識がハッキリしている分、今度は余裕を持って降りられた。彼女も予想通りの身軽さで空中で上体を立て直すとスタリと着地した。

「ここは……」
「何か、いるな」

 ギャァァアアア……
 ォォオオオ……

 グァァァァ……

 ゴォォオオ……

「すみません。私のせいで」
「違うだろ。それに反省するのは後だ」

 俺達はその瞬間、同時に覚悟を決めた。
 どちらかが声に出した訳じゃない。

 それでも、肌で感じる殺意で察しがついていた。
 落ちた先は。モンスターハウスだ。


 ビュンッと空中で風が起きる。
 俺の髪の毛が数本宙を舞った。


「クソッタレ……何が遺跡だ、ダンジョンだ。あんな初見殺しを用意しておいて、俺達を殺すつもりかァ!?」

 王子と王女?
 。絶対に生き延びてみせる。カトレアを助ける。ラケナリアにもう一度会う。それまでは……絶対に、死なないッ!!!


「【神剛派・第一秘刀】」
「魔法───」

 ここから始まるのはただの死闘だ。
 生き延びる事だけを考える。
 理性、プライド。全てを捨てて立ち向かえッ!!

「《一閃華》ァァァッッッ!!!!!」
「『明星ルキフェル』ッッ!!!」

 カッと光が部屋に瞬く。
 魔力を熾し全力で剣を振り抜く。

 不可視の刃が魔物の一体の首を斬った。

 それは丁度この前倒したマーナガルムだった。ウォォォンと耳を劈く吠声に、仲間達が集結して俺に迫る。

「うァァァァァ!!」

 極力被弾を抑えたかったが無理だ。
 手首を噛みつかれ、腹を食い破られ、激痛が全身を襲った。ただたった一回の反撃を許された俺は次から次へマーナガルムを切り刻んでいく。

 そしてポーチから浴びるように回復薬を飲む。

「魔法『稲妻エクレール』」

 ギャンッ!!

「魔法ッ、『星光エストレヤ』」

 ギャアア!?

「魔法『雷光トニトルス』!!」

 グァアアア!?!?

 カトレアは魔法を連発している。
 彼女の狙いに気づいた。ここの出口を探している。

 そうだ、無限に近い敵がいるとはいえ何も全てを倒さなくていい。俺は突破口を崩させまいと、火力を集中させるべく刀を握り刻む。

「壁に向かえ。そうすれば、少しは楽になる」
「了解、行きましょう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...