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case2 連れ去られた幼馴染
パーティー開催前の余興。
しおりを挟む屋敷に到着した。
お帰りなさいませ、と出迎える使用人達の挨拶がどうにも落ち着かない俺は、軽く会釈して中に入る。
だがその前に面倒な手続きが控えていた。
「ボディーチェックをさせて貰います」
使用人達は、服や鞄の中に危険物が無いかを確かめ始めた。勿論俺は武器を持っていないので特に咎められる心配はない。
「随分厳重なのですね」
「シスア様は、大変用心深い方でして……」
視線を敷地入口の門へと向ける。
私兵の二人が槍を持って見張りをしていた。
「特に最近は、ああして護衛を増やす始末です。マイスター家は国の中でも特に有名な貴族ですからね、いつどこから金目欲しさに押し入る輩が現れるか分かりません」
「……なるほど、今回のパーティーを自由参加ではなく招待制にしたのは単なる人数制限ではない訳ですか」
「ええ。ですから、当事者はともかく、こうして貴方達の様な外の人間をお招きするのは、大層珍しい事なのですよ」
そうか。
そう言われて嫌がる人間はいない。
「どうぞ、ごゆっくりお寛ぎ下さい」
ひとしきりチェックが終わると俺は解放された。話しながらだったからか、皆は俺を待つ様に視線を向けていた。
夕食までは自由に屋敷内を探索していいらしい。カナリアが殺害されるのがパーティー開催時だとして、それまで4時間程ある。それまでにできる限りの情報を集めたい。
俺の中では既に真実を掴みかけているが、シスア・マイスターという存在だけが未だに捉えきれないでいた。
一介の平民とは違い、貴族は手を出しにくいのだ。
パーティーまでの時間を潰す為、俺達はそれぞれの部屋に移動する。メンバーはオルゴ達の冒険者一行と、ケージ。そして完全に部外者枠である俺とアイシャだ。
その他来賓者は、宴用の服に着替えたりと準備が大変で出向くのはパーティーが開催される直前なのだとか。
オルゴを除いたその仲間達にまず一室。カナリアは不明だが、ケージも専用の部屋が与えられていた。
そして、俺達は───。
「わわわ……っ、どうして私達が相部屋なんですか!?」
「俺達がセットで考えられていた結果でしょう。別にここで一夜を明かす訳では無いですし、少し落ち着かれては?」
「そ、そ、そう言われましても~っ」
純情な乙女らしく顔を火照らせるアイシャ。彼女には彼女なりの羞恥パラメータが存在するのだろう。
窓のカーテンをシャっと開ける。
ちょうど門番達が見える位置だった。
「アイシャさんは、何か知っておられますか? シスア・マイスター様やマイスター家について」
何気なくアイシャに話を振ってみた。ベットに腰掛けつつ、うーんと頭に指を当てて考え出した。
「そうですね……前は国王様と非常に懇意な仲だという噂は聞きますが、最近はどうなのでしょう。最近王宮の方が非常にピリピリしていましたから、お茶会等もご無沙汰なんでしょうか」
「王宮が……何かありましたか?」
「ベリアルさん、知らないんですか? 最近隣国との国境付近で小競り合いがあったらしく、近々戦争になるかもしれないと」
全く知らない話だった。
最近の注目の的は、カナリアやその付近だったので大衆が当然知っている内容が情報網から抜け落ちていたらしい。
「物騒な話ですね。何事も無ければいいですけど」
とはいえ、それは関係ない話だ。
俺は屋敷を探索すると行って外に出た。その際、「案外ベリアルさんも男の子なんですね」とクスクス笑われてしまったのだが、言い返す必要も無かったのでそのままにした。
□■□
これ程大きな屋敷に入る機会は早々ないので、折角ならと部屋の外に出る存在は少なからずいると思ったが、人の気配はまるでなかった。二階から吹き抜けになった一階部分を見下ろすとオルゴの姿があった。
使用人達と何か揉め事の様だ。
話終えると、ちょうど俺と目が合った。
「驚いたぞ。あれはなんの手品だ?」
「手品、ですか」
オルゴは俺に興味を示していた。見事勝利を収めたケージではなく一介のギルド職員に過ぎない俺に対して、だ。
氷水に冷やした果実入りジュースをグラスに注ぐと俺に手渡してきた。「これをやるから真実を話せ」と言っているみたいだ。
「別にタネも仕掛けもない、ただケージ様に芽生えた唯一の『恩恵』を使いこなせる様に特訓したまでです」
「どうだろうな。彼奴は私の攻撃を全て見切っていた。まるで何度も何度も繰り返し同じ場面を見たかのように、全ての行動が先読みされていた」
俺はそれを聞いて納得した。あの攻防は単なる『先見』の先読みではなく、『夢』を通して同じ戦いを繰り広げた結果だろう。
寧ろ、『夢』の展開に似せる様戦っていたのかもしれない。
「それ以上は……お前に聞いても分かりそうにないな」
諦めた様子でオルゴは肩を竦めた。
「先程、使用人の方となにか言い争っておられましたが」
「あれか? 何、父上が私に無断でパーティーを開催すると言い出したものだからな。使用人達は食材の準備の都合で、父上から先に聞かされていたはずなのだ。それを私に伝えなかった事を責めたまでだ、特に言い争った訳では無い」
シスアの暴走には、付き合わされ続けただけの事はある。それ以上の怒りは鎮めて、息を吐くだけだった。
「カナリア様については、あの後何か話を?」
「いや。実は最近彼女とは何も話せていないのだ。気分は沈み、常に何かを気にしているようだった」
「……それは、故郷からの手紙ではないですか?」
「ほう、お前も彼女の秘密を知っている様だな。確かに私は彼女に協力する形で、行動を共にしていた。だがこの時期に、故郷からの手紙を気にするとなると───」
「はい。十中八九、時間が無いのだと思います」
やはり、ベイタからの報告は正しかったか。
気がつくとグラスが空になっていた。「もう一杯いるか?」とジェスチャーを受けたが、優しく首を横に振った。
「なかなか有意義な時間が過ごせた。また、話をしよう」
「はい。それでは失礼します、オルゴ様」
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