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case2 連れ去られた幼馴染
代行屋VS依頼者。
しおりを挟む薄暗い武器庫の中で、ぽうっと翠の光が灯る。
『恩恵』発動の兆候、あれは『先見』だ。
瞳が輝き、ぬるりと揺れる様に身体がブレる。
瞬間、俺も臨戦態勢に入る。
「『恩恵』発動、『手刀』」
緋色に輝く手先が、ケージの剣を迎え打つ。
ガインッと耳を劈く金属音と共に派手な火花が散った。
「……」
ケージは動揺した素振りはない。
この対局自体既に何度目なのかも俺には分からない。
「手の内は全てバレていると考えた方が良さそうですね」
『夢』で俺が出した技の全てをケージは警戒している。俺が起こす予想外の動きも、ケージには予想の範疇だという事。
ある意味これは、自分自身との戦いだ。
如何に俺自身を欺けるか。それが鍵となる。
『夢』で一度も出したことの無い技こそが決定打だ。
「やぁああああッ!!」
「……はぁあッッ!!」
打ち合いが過激化する。
時に、『先見』には対処法がある。
俺はケージに、"一秒先"の未来を見ろと伝えた。
ならば、一秒以内のアクションは見切られないという事。
二回、三回の交錯でケージがこちらの攻撃に対応する方法を観察し、『先見』が見る未来がいつなのかを断定する。
そして、それに応じて攻撃パターンを変化させていく。
俺の蹴りが空を切った。
今度は素早い動きで『手刀』を放つと剣で受けられた。
発生が遅い蹴りは既に『先見』の効果範囲。
やはり、『手刀』便りにパターンを構成すべきだろう。
回避は、一秒以内に必要最低限を行えば十分だ。
いくら『先見』を使いこなすと言えど、本格的に剣を持って一週間しか経たぬ相手に俺を出し抜く程の剣技があると思えない。
『手刀』は攻撃優先で、防御には一切使わなかった。
これにより、剣と手という圧倒的リーチ差が、間一髪の回避行動によって距離を詰め、着実に追い詰め始めている。
「見事ですね。俺の攻撃にここまで耐えられるとは思いもよりませんでした」
「当たり前だ。ボクはこの戦いを既に三回も経験している」
予想した通り、ケージは『夢』で戦いを続けていた。
「この際白状しよう。ボクは稽古を初めて三日目でオルゴに勝つ未来が見えていた。未来はたしかに変わっていたんだ」
「なら、その後パーティーが開催される事も、カナリア様に拒絶される事も、俺と戦う羽目になる事も───全て分かっていたと」
「そうだよ。ボクの策略はいつも君に妨害される。そしてそこで『夢』は終わるんだ。カナリアちゃんとの幸せな未来を、僕はこれまで見た試しがない」
拳をギリッと握り締め、歯を食いしばった。
通常の何倍もの重みがその拳に乗っている。
自身の無力感や、思い通りにならない悲しさ、悔しさを胸に秘めて今この場で俺に対峙している。
「ボクは負けられない。ボク自身の為にも、そして何よりカナリアちゃんの為にもッ、ボクは今日君を超えるんだッ!!!!」
決闘以上の機敏な動き。
勢いに押され、俺は半歩足を後ろに下げた。
「くっ……!!」
俺が俺を騙すなら、何をするかを考えた。
過去の俺が絶対にやっていない、そしてこの状況下で必殺必中となり得る攻撃。
『幻影』を投射するか?
───いや、安直すぎる。一回目に思いつく。
『加速』で正面突破はどうだ?
───『先見』に対して、強引さは無謀だ。
『白光』で目を焼くか?
───決定打にかける。堅実すぎるのもダメだ。
なら、残された手段は───。
「『恩恵』発動───、『掌底』」
突きに対して掌を突き出す。
ケージは驚愕に目を見開く。
まるで予想していなかった択。
ノーモーションからの最速行動。なんとか剣筋を逸らそうと試みていたが、無駄な努力だ。
迸る閃光と共に、掌が剣先を包み込む。
軽い衝撃波が顔を撫でた。
殺しきれなかった勢いに、俺の手から鮮血が零れた。
痛みを我慢して、剣を握り込む。
腕を伝って血液がボトボトと地面に落ちる。俺は剣を離さず、そのまま剣ごとケージを引き寄せた。
単純な握力勝負なら俺に軍配が上がる。
もう片手に『掌底』を込めて放つ。
「『掌底』」
開いた懐に強烈な一撃を叩き込んだ。
回避不可能な間合い、ケージは崩れ落ちた。
「どう……してだ。なん、でボクは勝てないんだっ」
「正直に申し上げるなら場数の差です。俺はケージ様よりも戦闘になれていた。だから勝てた。自然の道理です」
「くそっ……」
ダンっと地面を叩く。
だがケージは決して弱かった訳じゃない。
最近直接戦闘の機会が無かったとはいえ、俺に傷をつけ俺に長考を強いた。たった一週間の努力でここまで上り詰めたのは一重に、ケージが強くなりたいと望んだからだ。
俺は膝を折ってケージに顔を近づけた。
「約束します。俺はシスア様の元に行って、必ずカナリア様の暗殺を阻止して見せます。ですからケージ様は、カナリア様の言う事に耳を傾けてください。そうすればきっと、行き違いは解消されますから」
「なんだって……行き違い?」
俺はそれ以上言わずに立ち去った。
俺にはやるべき事が残されているのだ。戦闘の余韻に浸る前に、シスア・マイスターを絶望と後悔に染め上げる。
さあ、楽しい楽しいざまぁタイムの開幕だ。
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