二度目の世界で今度こそ俺は

開拓

文字の大きさ
8 / 34
終りと始まり

#08燃える村

しおりを挟む
 
 燃え盛る炎に立ち昇る黒煙。
 俺は不安に駆られつつ最大速度で村へと向かう。
 村へと近づくにつれ、小さな人影が戦っている姿が見えてくる。

「くそっ、何が起きてるんだ」

 黒い鎧に身を包み兵士のような者たちと、その兵士達が掲げる赤黒い旗が見える。
 あの旗は確かリーナの授業でならった魔国の兵達だ、人数もぱっと見るだけでも百人位いるであろうか。
 逆に白い鎧や軽装防具を付けて応戦しているのは、見慣れた村の兵達だ。
 大きな自然のみが売りで、国の端と言えば端のほうの領民もわずか五百人ほどの領地だ。
 この村だけで考えれば、村人百人に国からの守護兵も十人ほどしかいない。
 鍬などを持った村人も一緒に戦っているが、あまりにも戦力が違いすぎる。
 魔国が攻め入るときは、今まで国と国が面している開けた平野が戦場になっていたため、まさか深い森林と連なる山々を越え攻め込んでくるとは予想していなかったのだろう。
 白い鎧の兵士達が集まっている辺から発生した風の刃が、黒鎧の兵士を真っ二つに切り裂いた。

「領民達よ、兵士以外の者は逃げ遅れた村人を守りながら退避しなさい! 私と兵士は村人が逃げ切るまでの時間を稼ぎますよ」

 リーナの大きな声が響き渡った。
  一瞬時間が止まったようだったが、すぐに村人達は退避しはじめた。
 村人を追おうとする黒鎧の兵たちを、手を払いのける動作と共に次々と真っ二つにしていく。
 鎧ごと切り裂くほどのカマイタチは、かなりの魔力を使うはずだ。
 助太刀しようと俺はリーナの後ろに降り立った。

「師匠、僕も手伝います」

「セイン無事で何よりです。この程度の魔国兵なら私と兵士で何とか持ちます。それより町外れに住んでいるエレナや、その周辺に住む村人が気になります。セインはそちらに向かってください。くれぐれも無茶はせず、危ないと思ったらすぐに逃げなさい」
 
 リーナはこちらに目も向けず次々と敵を薙ぎ倒していく。
 空から見た限り村外れの我が家の方には炎によって燃えていたなかったが、やはり一番心配なのはエレナだ。
 こんなところで親を失ってたまるか。

「分かりました。大丈夫だと思いますが、師匠も気をつけて」

 ふっと浮き上がり出せる全力のスピードで我が家の方角へ飛ぶ。
 呆然と空を見上げる黒鎧の兵達につられ、リーナも空へと目を向ける。

「あなたは私を驚かせるばかりです……」

 リーナの小さな声の後、微妙な間が空き、戦いが再開した。


 家の前に降り立つと、すでに五十人ほどの兵士が倒れていた。
 切り裂かれているものや、死体になっても未だに燃え続けている者もいる。
 残る敵は数人ほどしかおらず、皆おびえる様に後ずさっている、敵の前に立ちはだかるのは横立ちで剣を下段に構える白髪の老人だ。
 その後ろには杖を持ち、左手に炎の球体を掲げている赤髪の美女。

「かあさま! クレイル!」

「セイン! 良かった無事だったのね!」

 エレナがこちらを向いた瞬間、数人の兵士がクレイルに向かう。
 クレイルはすれ違いざまにまるで軽い棒切れを振っているかのような滑らかな動きで長剣を振り、敵兵が二メートルほど進んだところでバタバタと倒れていく。
 返り血もまるで受けていないクレイルに、残った数名の兵士達が怯えながら口を開く。

「無駄なんだ、無駄なんだよ! 俺達は足止め目的の斥候部隊だ、後方じゃ二万の部隊を率いる魔剣士長がこっちに向かってきている。もう逃げる時間はない、理解できたか? いくらその老剣士が強かろうと、お前達はどうせ死ぬんだよ」

 下手糞な人間の言葉を大声で喚き、ニタニタと笑う黒鎧の兵士にゆっくりとクレイルが近づく。

「なるほど二万の兵の将ですか、確かに二万の兵士相手では私も死ぬでしょう。ですがその魔剣士長だけは確実に殺し、エレナ様達だけは逃げ切ってもらえるよう時間を稼ぎましょう」

「貴様、気でも狂っているのか」

 下手糞な人間語のあと、おかしそうに笑い転げる黒鎧の兵士にゆっくりと剣を向ける。

「これでも昔、この国の筆頭王国戦士長として全軍を率いていた身です、今ではただの老兵ですが、それ位はなんとかなるでしょう」

 黒鎧の兵の体が膠着する。

「お、お前があの……クレイ」

 血しぶきを上げゆっくりと首が落ちる黒鎧の兵に背を向けこちらに歩いてくる。

「セイン様ご無事で何よりです」

「クレイル強いと思ってたけど、筆頭王国戦士長だったんだ」

「昔の話ですよ。今はレイフォード家の執事という仕事に誇りを持っております。それよりも敵兵の話通りだとすれば、ここは私が残って時間を稼ぐしかないでしょう。セイン様、エレナ様をお願いしますね」

 その案だと、まず敵兵がどちらから来るかも分からない状況のため、仮にこの村でクレイルが待ったとしても、ここを通るかは分からない。
 むしろこの村に敵が来ず、逃げる方向で出くわした場合目も当てられない。

「クレイル、その作戦は敵の明確な位置と、距離がわからないと危ういと思うよ。むしろかあさまにはクレイルが付いて行動してた方が安全だと思う」

 クレイルは意味を察したのか、僅かに頷く。

「それに敵の距離次第では、戦わなくても兵士が大勢いる大きな街に逃げ切れるかも知れない。リーナや村人達も一緒に逃げないといけないしね」

 エレナが何かを考えるように唸っている。

「何か距離を測るいい方法はあるかしら。相手の位置もある程度の間隔で把握しないといけないでしょうし」

 エレナの言うとおりだが最初から考えてある。

「僕は飛行魔法が使えます。かなり上空から見渡せばどこから兵が来るかわかるでしょう。ここから大きな街まではどれだけ早く向かっても四日はかかります。相手も兵が多い分時間がかかるでしょう。逃げ切れる可能性は十分あります」

「……飛行魔法?」

 二人は驚く顔のままこっちをみて唖然としている。

「ごめんさない。今は飛行魔法のことを話す時間はなさそうです。かあさまとクレイルはリーナが逃がした村人と一緒に逃げてください。僕はリーナにこのことを伝えてきます」

「だめよセイン、リーナに伝えるなら私が行くわ。あなたが先に逃げなさい」

「いえ、リーナ師匠の方はもう殆ど敵もいないでしょうし、急いで行かなければその分敵との距離が詰まります。僕なら空を飛んですぐに行けますから任せてください」

「……絶対危険なことはしちゃ駄目よ。敵がいたらすぐにこちらに戻ってきなさい」

「分かりましたかあさま」

 俺は頷くと、また村に向けて飛び立った。
 今日はもうかなり飛行魔法を使っている。
 最大で半日もつとはいえ、残りの魔力が心配になってきた。

 村にいた黒鎧の兵はすべて倒されていて、リーナが怪我をした兵士に回復魔法をかけているところだった。

「師匠、無事ですか」

「セインですか、こちらは大丈夫です。エレナ達は大丈夫でしたか?」

「あらかたクレイルが倒していたので向こうの村人達は大丈夫です。それより二万近い敵が迫っていると、敵兵が情報を漏らしました。僕が空から距離を測りつつ誘導するので、近くの大きな街に逃げましょう」

「二万!?」

 リーナの大きな声に、あたりの兵士たちからもどよめきが起こりはじめた。

「分かりました。皆、急いでカルザスの街に逃げましょう」

 俺はすっと上空に飛び上がり、かなりの高さまで上がったところで敵の姿を確認した。
 大きな川を越えたあたりだろうか、二万という数が集まるとあんなふうに見えるのかと背筋に悪寒を感じながら、大体の距離を目算する。
 大雑把だが大体三十キロぐらいだろうか、俺は前世で戦国アニメを作ったときの知識を、何とか思い出そうと頭を捻る。
 夜は行軍しないとして、歩兵がいるから一日二十キロ、無理をして三十キロの行軍が限界だろう。
 この一日の距離の差が埋まれば、クレイルの決死作戦しかなく、それでも稼げる時間は少ないだろう。
 こちらは老人も含めた大勢の村人、敵は統率された軍隊で、猶予は一日分の差。
 俺の額から流れる嫌な汗を拭う。
 こうして追いつかれれば確実に死ぬであろう、退避戦が幕を開けた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...