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獣人国ゼルガルド王国編
#31死闘
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「あれで死ななんだか、守ってくれた者に礼を言うといい」
「ええ……。僕は甘かった。甘過ぎました。あれほど自分の力が足りないことを悔やんできた僕が、周りから強いと評価され、戦いにおいて苦戦しない程度のことで、自分の力を驕り、過大評価し、油断し、心のどこかで魔法が効かないなんて言っても、自分ならどうにかなるだろうなんて思っていました」
ゲイルは少し笑い、呆れたような表情でこちらを見ている。
「攻める戦いには自分がその時思いつく最大の備えを持って行うべし。守る戦いには、最低限自身が納得できる備えを常にするべし。古く伝わる犬族の心構えだ。戦いにおいて驕りや自信、油断なぞしても構わん。それが他者を巻き込まない戦いならだがな。まぁ経験の少ない子供のお前にそこまで考えておけというのも無理な話だがな」
「ふふっ。子供でもないんですけどね……。戦いなんてここ最近し始めたことなので、経験不足はその通りですけど」
(全く言うとおりだ。耳が痛い……。人生経験は合わせて34年もあるのに、まったく成長出来てない気がするよ)
「まぁ話してても意味ないでしょう。僕はサーリャを傷つけてしまった自分に今めちゃくちゃ怒っているのもありますけど、奴隷狩りなんて糞みたいなことをしていたあんた達にムカついてるんですよ」
「だろうな。殺気までと顔つきが違うわ。だが俺には魔法は効かんぞ」
「魔法が効かないと言うよりは魔力の篭ったものが効かないんでしょう? 大丈夫ですよ。魔法じゃありませんか……ら!!」
俺は勢い良く地を蹴り一直線にゲイルに飛び込む。
想像以上のスピードが出て俺自身も間合いを掴めない。
ゲイルも想像できないようなスピードの俺に対応できず無防備だ。
俺は咄嗟にゲイルの腹目掛けて足を上げる。
「ガハッ」
地面を後ろ向きに転がるように吹き飛ぶゲイル。
転がりながら立ち上がり腹を擦る。
蹴った当の本人は衝撃で後ろに転んでしまっていたが、すぐに立ち上がり駆け出す。
呼応するようにゲイルもこちらに向かい走りだす。
俺がジャンプして繰り出した拳はスルリと躱され、そのまま回し蹴りが飛んでくる。
咄嗟に両手でガードするが、地面から浮いてしまっている俺はそのまま吹き飛ばされた。
身体強化のおかげだろう、かなりの衝撃はあったものの大きなダメージはない。
俺はすぐに立ち上がり駆け出す。
「アースウォール」
ゲイルの左右と後方に土の壁を出現させる。
ゲイルはこれで正面からやりあうか、上空に躱すしかない。
俺は先程と同じくジャンプし、大きく拳を振りかぶる。
ゲイルは正面からやりあうことを選択した。
ゲイルは先ほどのやり取りで、俺が躱せないと予想し、大きく振りかぶった拳を繰り出した。
俺は狙い通りと風魔法で自分の位置を少し横に反らしてギリギリで躱し、空を切ったその腕を両腕でつかみ、腹に両足で蹴りを入れ、そのまま背負うように投げ飛ばし地面に叩きつけた。
「ガッ」
背中から地面に打ち付けられ苦悶の表情を見せるゲイル。
俺はゲイルの首から下げられているネックレスに手を伸ばした。
それに気がついたゲイルは俺の腕を掴み投げ飛ばす。
すぐさま立ち上がり追撃しようとすると、ゲイルもすでに立ち上がっていた。
「なるほどな、これを最初から狙っていたのか、だが残念だったな」
ゲイルはネックレスを高らかに持ち上げると大きく開けた口の中に放り込んだ。
「ゴクッ」
「まじかよ……」
「これで俺を体術で倒すしか手がなくなったぞ。さあ続けるぞ」
飛びかかるように接近してくるゲイル。俺は咄嗟に後ろに飛んだが、ギリギリで腕を掴まれる。
空中で腕を離され戸惑う俺に、ゲイルは横に一回転し回し蹴りを繰り出した。
(やばい、これは躱せない)
吸い込まれるように俺の腹に撃ち込まれる蹴り。俺はまるでボールのように地面を転がる。
息が一瞬止まるような衝撃の後、激しく襲ってくる痛みに耐えながら立ち上がろうとすると、すでに俺のそばで足を大きく振りかぶっていたゲイルがいた。
咄嗟に両腕でガードしたがまたもボールのように吹き飛ばされる。
腕でガードしているとはいえ衝撃は尋常ではない。
地面で切ったのだろうか服はところどころ破れ頭や体から血がでてくる。
このままだと繰り返しだと脳裏によぎった俺は、すぐに飛行魔法を使用し空中に退避した。
「ゴホッ、ゴホッ」
むせながら息を整えゲイルの姿を確認する。
ゲイルを含め周りにいたすべての者が驚いた表情で俺を見る。
「ほう……。飛行魔法か。使える者がいるとは思わなかったな。聞けば理論はあるが、尋常でない魔力を使用すると聞くが」
「ゴホッ。あなたに教える義理はないですね」
「まぁかまわんが、空に逃げてどうするのだ? 魔法が効かない俺とはそこからではまともに戦えんぞ? もしくは戦闘放棄でいいのか?」
「作戦を考えているのですよ」
正直思いつく作戦などない。ダメージ的にはかなり不利だし、ネックレスを奪う作戦も封じられた以上、肉弾戦で勝つしかないこの状況は極めて厳しい。
もっと魔力を身体強化に注ぎ込むこともできなくはないが、あまりやり過ぎると戦いが終わったあと死ぬ可能性がでてくる。
「降りてこないなら降りやすくしてやろう」
俺に背を向け、広場の隅に向かって歩いて行くゲイル。
その方向に目を向けると、倒れている者が一人いる。
当たり前だ。そこには俺が寝かせた者がいるのだから。
何をする気だ。何のつもりだ。何だ。何だ。何だ。
ふっ頭が真っ白になり、瞬間頭の血管がブチ切れる音が聞こえた。
俺は飛行魔法の最高速度でゲイルに向かい降下する。
振り向くゲイルの首に向かい蹴りを入れる。
何回転かしたゲイルの顔にすかさず回りこみインステップキックをお見舞いする。
よろめきながら立ち上がったゲイルに飛行しながら接近する。
ゲイルは俺の接近に合わせるように回転しながら蹴りを繰りだそうとする。
「マッドグラウンド」
俺は軸足の地面を泥濘へと変質させる。
バランスを崩したゲイルの顔と首にそのままの勢いで蹴りを入れる。
ゴキッっと嫌な音を鳴らしながら吹き飛んだゲイルは首を抑えながらうつ伏せで呻いている。
ゆっくりと近づき、大きく振りかぶった足を脇腹に入れる。
大きくくの字に曲がりながら地面を滑っていくゲイルを追いかけ腰に同じく蹴りを入れる。
もはや呻くだけになった男の背中や頭を踏みつけていく。
二度と立ち上がってこないように、二度と刃向かえないように。
踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。
戦闘の興奮状態から徐々に覚め、頭が少しずつクリアになってくるころには、下にいた男はピクピクと震え息絶え絶えになっていた。
肌にはいたるところに打撲の跡があり、何箇所かは骨が折れている。口からは血を吐いた跡があり、意識はなく体の痙攣だけが、男がまだ生きていることを証明していた。
興奮状態から覚めたことによる体中の痛み、魔法で戦うこととは全く違う、戦いの感触が残る生生しい気持ち悪さが俺の体を支配する。
身体強化を解く前でもこんなに痛く苦しいのに、この強化を解いたら俺はどうなるのか想像もつかない。
リーナの言葉を思い出すように、回復魔法を唱えある程度の怪我を治していく。
「役に立てずすまない……」
いつの間にか、ガイウスとシルファ、レイアが俺の後ろに立っていた。
申し訳無さそうにするガイウスとシルファだが、俺が記憶を失いながらゲイルを滅多打ちにしている間に、他の犬族の戦士を倒してくれたのだろう、後方には戦士達も地面に伏している。
レイアは普段と変わらないように一見見えたが、よく見ると震えているのが分かる。
戦いが怖いのではない。きっと残忍と言ってもいい戦闘をしていた俺を怖がっているのだろう。
「いえ、皆さん良くやってくれたと思いますよ。シルファさんすみませんが、サーリャと猫族と狐族の戦士に回復魔法をお願いします。僕も手伝いたいところなのですが、正直もう一歩も動きたくない感じなんです。では後をお願いします」
俺は体の倦怠感や、痛みに身を任せるように身体強化を解く。
そして、突き刺さるような痛みの中で、俺は意識を失った。
「ええ……。僕は甘かった。甘過ぎました。あれほど自分の力が足りないことを悔やんできた僕が、周りから強いと評価され、戦いにおいて苦戦しない程度のことで、自分の力を驕り、過大評価し、油断し、心のどこかで魔法が効かないなんて言っても、自分ならどうにかなるだろうなんて思っていました」
ゲイルは少し笑い、呆れたような表情でこちらを見ている。
「攻める戦いには自分がその時思いつく最大の備えを持って行うべし。守る戦いには、最低限自身が納得できる備えを常にするべし。古く伝わる犬族の心構えだ。戦いにおいて驕りや自信、油断なぞしても構わん。それが他者を巻き込まない戦いならだがな。まぁ経験の少ない子供のお前にそこまで考えておけというのも無理な話だがな」
「ふふっ。子供でもないんですけどね……。戦いなんてここ最近し始めたことなので、経験不足はその通りですけど」
(全く言うとおりだ。耳が痛い……。人生経験は合わせて34年もあるのに、まったく成長出来てない気がするよ)
「まぁ話してても意味ないでしょう。僕はサーリャを傷つけてしまった自分に今めちゃくちゃ怒っているのもありますけど、奴隷狩りなんて糞みたいなことをしていたあんた達にムカついてるんですよ」
「だろうな。殺気までと顔つきが違うわ。だが俺には魔法は効かんぞ」
「魔法が効かないと言うよりは魔力の篭ったものが効かないんでしょう? 大丈夫ですよ。魔法じゃありませんか……ら!!」
俺は勢い良く地を蹴り一直線にゲイルに飛び込む。
想像以上のスピードが出て俺自身も間合いを掴めない。
ゲイルも想像できないようなスピードの俺に対応できず無防備だ。
俺は咄嗟にゲイルの腹目掛けて足を上げる。
「ガハッ」
地面を後ろ向きに転がるように吹き飛ぶゲイル。
転がりながら立ち上がり腹を擦る。
蹴った当の本人は衝撃で後ろに転んでしまっていたが、すぐに立ち上がり駆け出す。
呼応するようにゲイルもこちらに向かい走りだす。
俺がジャンプして繰り出した拳はスルリと躱され、そのまま回し蹴りが飛んでくる。
咄嗟に両手でガードするが、地面から浮いてしまっている俺はそのまま吹き飛ばされた。
身体強化のおかげだろう、かなりの衝撃はあったものの大きなダメージはない。
俺はすぐに立ち上がり駆け出す。
「アースウォール」
ゲイルの左右と後方に土の壁を出現させる。
ゲイルはこれで正面からやりあうか、上空に躱すしかない。
俺は先程と同じくジャンプし、大きく拳を振りかぶる。
ゲイルは正面からやりあうことを選択した。
ゲイルは先ほどのやり取りで、俺が躱せないと予想し、大きく振りかぶった拳を繰り出した。
俺は狙い通りと風魔法で自分の位置を少し横に反らしてギリギリで躱し、空を切ったその腕を両腕でつかみ、腹に両足で蹴りを入れ、そのまま背負うように投げ飛ばし地面に叩きつけた。
「ガッ」
背中から地面に打ち付けられ苦悶の表情を見せるゲイル。
俺はゲイルの首から下げられているネックレスに手を伸ばした。
それに気がついたゲイルは俺の腕を掴み投げ飛ばす。
すぐさま立ち上がり追撃しようとすると、ゲイルもすでに立ち上がっていた。
「なるほどな、これを最初から狙っていたのか、だが残念だったな」
ゲイルはネックレスを高らかに持ち上げると大きく開けた口の中に放り込んだ。
「ゴクッ」
「まじかよ……」
「これで俺を体術で倒すしか手がなくなったぞ。さあ続けるぞ」
飛びかかるように接近してくるゲイル。俺は咄嗟に後ろに飛んだが、ギリギリで腕を掴まれる。
空中で腕を離され戸惑う俺に、ゲイルは横に一回転し回し蹴りを繰り出した。
(やばい、これは躱せない)
吸い込まれるように俺の腹に撃ち込まれる蹴り。俺はまるでボールのように地面を転がる。
息が一瞬止まるような衝撃の後、激しく襲ってくる痛みに耐えながら立ち上がろうとすると、すでに俺のそばで足を大きく振りかぶっていたゲイルがいた。
咄嗟に両腕でガードしたがまたもボールのように吹き飛ばされる。
腕でガードしているとはいえ衝撃は尋常ではない。
地面で切ったのだろうか服はところどころ破れ頭や体から血がでてくる。
このままだと繰り返しだと脳裏によぎった俺は、すぐに飛行魔法を使用し空中に退避した。
「ゴホッ、ゴホッ」
むせながら息を整えゲイルの姿を確認する。
ゲイルを含め周りにいたすべての者が驚いた表情で俺を見る。
「ほう……。飛行魔法か。使える者がいるとは思わなかったな。聞けば理論はあるが、尋常でない魔力を使用すると聞くが」
「ゴホッ。あなたに教える義理はないですね」
「まぁかまわんが、空に逃げてどうするのだ? 魔法が効かない俺とはそこからではまともに戦えんぞ? もしくは戦闘放棄でいいのか?」
「作戦を考えているのですよ」
正直思いつく作戦などない。ダメージ的にはかなり不利だし、ネックレスを奪う作戦も封じられた以上、肉弾戦で勝つしかないこの状況は極めて厳しい。
もっと魔力を身体強化に注ぎ込むこともできなくはないが、あまりやり過ぎると戦いが終わったあと死ぬ可能性がでてくる。
「降りてこないなら降りやすくしてやろう」
俺に背を向け、広場の隅に向かって歩いて行くゲイル。
その方向に目を向けると、倒れている者が一人いる。
当たり前だ。そこには俺が寝かせた者がいるのだから。
何をする気だ。何のつもりだ。何だ。何だ。何だ。
ふっ頭が真っ白になり、瞬間頭の血管がブチ切れる音が聞こえた。
俺は飛行魔法の最高速度でゲイルに向かい降下する。
振り向くゲイルの首に向かい蹴りを入れる。
何回転かしたゲイルの顔にすかさず回りこみインステップキックをお見舞いする。
よろめきながら立ち上がったゲイルに飛行しながら接近する。
ゲイルは俺の接近に合わせるように回転しながら蹴りを繰りだそうとする。
「マッドグラウンド」
俺は軸足の地面を泥濘へと変質させる。
バランスを崩したゲイルの顔と首にそのままの勢いで蹴りを入れる。
ゴキッっと嫌な音を鳴らしながら吹き飛んだゲイルは首を抑えながらうつ伏せで呻いている。
ゆっくりと近づき、大きく振りかぶった足を脇腹に入れる。
大きくくの字に曲がりながら地面を滑っていくゲイルを追いかけ腰に同じく蹴りを入れる。
もはや呻くだけになった男の背中や頭を踏みつけていく。
二度と立ち上がってこないように、二度と刃向かえないように。
踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。踏みつける。
戦闘の興奮状態から徐々に覚め、頭が少しずつクリアになってくるころには、下にいた男はピクピクと震え息絶え絶えになっていた。
肌にはいたるところに打撲の跡があり、何箇所かは骨が折れている。口からは血を吐いた跡があり、意識はなく体の痙攣だけが、男がまだ生きていることを証明していた。
興奮状態から覚めたことによる体中の痛み、魔法で戦うこととは全く違う、戦いの感触が残る生生しい気持ち悪さが俺の体を支配する。
身体強化を解く前でもこんなに痛く苦しいのに、この強化を解いたら俺はどうなるのか想像もつかない。
リーナの言葉を思い出すように、回復魔法を唱えある程度の怪我を治していく。
「役に立てずすまない……」
いつの間にか、ガイウスとシルファ、レイアが俺の後ろに立っていた。
申し訳無さそうにするガイウスとシルファだが、俺が記憶を失いながらゲイルを滅多打ちにしている間に、他の犬族の戦士を倒してくれたのだろう、後方には戦士達も地面に伏している。
レイアは普段と変わらないように一見見えたが、よく見ると震えているのが分かる。
戦いが怖いのではない。きっと残忍と言ってもいい戦闘をしていた俺を怖がっているのだろう。
「いえ、皆さん良くやってくれたと思いますよ。シルファさんすみませんが、サーリャと猫族と狐族の戦士に回復魔法をお願いします。僕も手伝いたいところなのですが、正直もう一歩も動きたくない感じなんです。では後をお願いします」
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