8 / 11
本編
第7話 王城(↘?)
しおりを挟むオレは、しがない魔道具職人。
対して彼女は、大国の第二王女殿下。
身分違いも、甚だしい・・・
それでもオレは、彼女の傍に居続けた・・・
彼女が可愛くて、可愛くて、可愛くて・・・
引き際を見極められないまま、今日まで来てしまった。
祝賀会から5か月が経過し、とうとう王太子に、彼女の父親に呼び出された。
王太子執務室に呼ばれた。
呼び出されるのは初めてではない。
だが、正規の手続きを得て呼び出されたのは、初めてだった・・・
「城に来て、3年・・・か・・・?!」
王太子が、静かに話し始めた。
「そうですね・・・3年・・・経ちました・・・」
オレも静かに答える。
「上の娘が城を出て・・・連絡を寄こさなくなって・・・5年が経った・・・」
城に来た頃には、もう既に音信不通だった第一王女だ。
「このまま帰って来ない様なら、跡継ぎに据えねばならん・・・」
王太子には王女が2人、いるだけだからな・・・
「つまりは、嫁にはやれんという事だ・・・」
そりゃ、そうだろう・・・
「まだ、魔道省に通っているのか?」
いきなり話が変わった?
「・・・?はい、書類仕事をしたあと、午後に臨時職員として出仕しています。」
国の魔道具技師達が在籍する魔道省魔道具課に、臨時職員として在籍させてもらっている。
通常だと考えられない程の、特別待遇だ・・・
エリート中のエリート達が在籍している。
色々な経験談を聞いたり、参考意見を貰ったり、時には熱く議論・討論するのがとても楽しい。
一部から反感を買っていたが、最近はそれほど悪くはない。
おそらく、何か手を打ってくれたのだろう。
有難い事だ。
「寝泊まりは、官舎だと聞いたが・・・誠か・・・?!」
恐る恐る聞いてくる王太子。
「はい、官舎の方が色々と都合が良いので・・・」
彼女は城に部屋を用意してくれようとしたのだが、断った。
本音は、いつでも出て行ける様に・・・
「引継ぎと引越しには、どの位時間が必要だ?」
・・・最後通牒か・・・
「一日あれば、充分です。」
城から出て行けと言う事か・・・
いや、国からかな・・・?
「周りが早く結婚をと、焦り始めてな・・・」
それはそうだろう・・・跡継ぎを早く作れって事か・・・
「明後日の朝、部屋を出ます・・・」
荷物は少ない。
引継ぎだけだ。
「・・・すまない・・・苦労を掛けるな・・・」
王太子が、静かに、ひとこと・・・
「・・・いえ・・・」
オレも、静かに、ひとこと、答えた・・・
準備は出来ている。
いつでも出ていけるように。
半年近くを掛けた。
もう充分だ。
あれから、カフェテリアには行っていない。
料理長とは、一緒に北の大森林に行ってきた。
彼女には黙っている様に言って、勿論彼女は黙っていたのに。
何故か教育係に見つけ出された。
解せぬ!
魔道具課には、昨日退職届を提出した。
研究中の魔道具は全て、例の年下同僚に引き継いだ。
きっと彼なら、新しい魔道具を完成させてくれるだろう。
官舎には、私物は残っていない。
半年かけて、色々と処分した。
元々持っていた物と、新たに開発した魔道具を幾つか。
最低限の日用品と着替え。
金銭は、魔道具協会に預けてある。
何円あるかは、確認したことが無いけど・・・
暫く生活するには、問題ないだろう。
3年。
長いように思うけど、短かったと感じるなぁ・・・
彼女と過ごしたのは5年か・・・
オレ、一生引きずるんだろうなぁ・・・
将来子供が出来たら、「父さんは昔、お姫様と恋人だったんだぞ。」って自慢するのかなぁ・・・
それとも、独身のまま彼女との思い出を抱えて寂しく生きていくのだろうか・・・
彼女は、泣くだろうなぁ・・・
でも、すぐに自分の立場を思い出して立ち直ってくれるって信じてる!
・・・今朝の書類仕事、断るんじゃなかったかなぁ・・・
でも、たぶんオレ彼女に嘘が吐けないから・・・
断って正解なんだよな。
最後にひとめ、会いたかったけど・・・
これでいいんだよな・・・
未練がましいなぁ・・・
さようなら・・・
オレは感傷に浸りながら、王城の裏門に向かった。
ひっそりと出ていくには相応しい小さな門。
門番は2人。
チョット街に出かける感じで。
いつもの様に、堂々と。
願わくば、2人の門番にお咎めがありません様に・・・
「居たぁっ!見付けたぁっっ!!何でこんな所に居るんですかっ!!!
今日、引っ越しって知ってますよねっ!
何で出掛けようとしているんですかっ!
予定が詰まっているんですよっ!
時間が無いんですよっ!
忙しいんですよっ!
手間、取らせないでくださいよぉっっっ!」
物凄い勢いで突撃してきた教育係が、オレの腕をグイグイと引っ張りながら王城に向かう。
いや、引っ越しって?
出かけるんじゃないんだけど?
予定も何も、出て行けって言われたんだけど?
え?
連絡、行ってないの?
戻って、また出てくるの?
おい、おい、おい、
ちょっと待てーーーーーーーーい!
==========
2018年9月16日
アルファポリス投稿
もっちり道明寺♪作
0
あなたにおすすめの小説
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる