帝国妖異対策局

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各話完結

❤ ろくろ首

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 その男はDTだった。明日には晴れて魔法使いとなる。そしてかなりDTをこじらせていた。

「もう俺の人生のレールには女の影さえ落ちやしないんだ」

 これまで彼は恋人を作るために、あらゆる努力を重ねて来た。

 強い男がモテると聞いた彼はロシアに渡って実践格闘術のシステマを習得した。

 Yontuberがモテると聞いた彼は「恋人出来るまで毎日腹筋チャンネル」を開設してひたすら腹筋。登録者は10万人を超えシルバー盾を取得した。

 Yapoo知恵袋で相談したら、恋人ができないのは前世の行いが悪かったからだと答えがあった。アドバイスに従って始めた四国のお遍路は、先日20周目を終えたところだ。

 彼はありとあらゆる努力を重ねた。今や彼の手にあるボロボロの『男が女にモテるためのルール100』には各ページに付箋が幾つも貼られており、分厚さが元の二倍になっていた。

 ネットのインフルエンサー、ひろゆし氏曰く

「DTの人ってモテるために見当違いな努力を必死にするのが面白いんすよ。普通、少し頭を使えば、結局モテるためには、お金持ちになるとか、安定した仕事に付いて出来る男になるとか、容姿を磨くとか、そんなところに辿り着くと思うんですけど。DTの人って、それ以外のところで努力しようとるすんすよね」

 男はまさにそれだった。

 しかし、30歳を目の前にした男は絶望していた。

「俺はこれまでずっとモテるために努力を続けてきた。別に沢山の異性にちやほやされたいわけじゃない。たった一人の恋人と出会うために俺の生涯を捧げて来た。なのに……このザマだ」

 絶望した男は、死に場所を求めて山奥を彷徨い続けた。凄く鍛えていた上に、さらにロシアではシステマを教えていたスペツナズの教官に気に入られ、おまけでサバイバル技術を叩き込まれた。

 ので、人が通常は入り込めないような山の奥の奥にある秘境にまで入り込んでしまった。

 そこで見つけた廃寺のお堂に寝転んで、そのまま男は死んでしまおうと思った。

 しかし、男がスペツナズの教官から教わったのは生き抜く技術だけだったので、死に方はわからなかった。

 仕方ないので男はお酒を飲んで眠り死のうと思った。

 そして死ぬほど飲んで、死ぬように眠った。

 その夜……

「くくく、こんなところに人が迷いこむとは数十年ぶりのことじゃないか。人の肉の味なんてもう忘れてしまったからねぇ」

 お堂の暗がりから現れた妖異が、寝ている彼を覗き込む。

 男は薄い意識の中で、何かが自分の近くにいることを感じていた。

 何かが寝ている自分の上を動いている。

 動いている何かの匂いが男の鼻腔をくすぐった。

 これは女性の匂いだ! そう思った瞬間、男はバッと飛び起きる!

「なっ!? わらわの金縛りが解かれたじゃと!」

 驚く女の顔が男の目の前にあった。

 美人だと男は思った。

 艶やかな長い白銀の髪と青い瞳、陶磁のような白い肌、女の顔は月から迎えが来そうな美しさだった。

 男はゴクリとつばを飲み込んだ。

 これでスタイルまで良かったら、もしかしたら自分は理性を保てないかもしれないと男は思った。思ったけど、やっぱり確認せずにはいられない。

「なっ! 身体がない!?」

 女の首だけが浮かんでいた。

 男は素早く視線を動かしてみたが、どこにも女の身体は見当たらない。

「くくく! わらわは飛頭蛮! おぬしら人間にはろくろ首の方がわかりやすかろう! どうじゃ恐ろしいか! 恐怖に震えて泣き叫ぶがよいわ!」

 男の目が大きく開かれた。

 女はそれを自分を恐れてのことだと思った。

 だが違った。

「お、女の人がこここ、こんな唇と唇が触れそうな6.5cm以下の距離に……」

 男は飛頭蛮(♀)のプルンプルンな唇に目を奪われていた。男は最大の理性を発揮して、自分を抑え込もうとしたので、身体プルプルと震えている。

「くくく、怖かろう。恐ろしかろう。今から、わらわが喰らうのだからのぉ」

 男は考えていた。

 危なかった。もしこれで彼女の魅惑的なボディが目の前にあったら、もう俺は犯罪者になっていた。痴漢は犯罪。確か死刑だったはずだ。

 つまりこれは、今まさに死なんとしていた俺を助けようという菩薩様かクトゥルフ様のお導きなのでは? どうやら彼女には身体がない。つまりそれは、俺が犯罪者になるのを避けるためだ! それにだ! そもそも彼女がいなければ、俺はこのまま酔いつぶれて死んでいたに違いない。

 なら何故彼女はここにいるのか!

 それが運命だからだ! 俺のこれまでの女日照りの人生は、今日、今、この時、彼女に出会うためだったんだ! これは俺と彼女のハッピーウェディングロードのスタート! つまり、

「好きだぁぁぁぁ! 結婚してくれぇぇぇぇ!」
「かかか! そうか叫ぶほど怖いか! 恐ろしいか……って今なんと言うた?」

 何か違和感を感じた飛頭蛮(♀)が、さっと男から距離を取ろうとする。

 ……ところを、男の両手がガシッと頭を掴んだ。女性に触れるなど、普段であれば男には超ムリな行動である。だが今は死を覚悟したほど切羽詰まっていて、さらには神の加護がついていると信じているので遠慮がなかった。

「無理なら、まずは恋人からでも! それも無理ならお友達からでもお願いします!」

 飛頭蛮(♀)は妖力を最大に発揮オーバードライブして逃れようとするが、鍛え上げたDTの腕力は常人のそれではなかった。

「なっ! こやつ! 強い!?」
「とととと友達からで、できれば友達以上セフレ以下でお願いできれば! できれば!」
「セフレ以下って! 以下では含まれとるじゃろがい!」

 追い詰められたDTに常識や配慮や気配りを求めるのが間違いである。鼻息荒く、目を血走らせて自分を見つめる……いや睨みつける男の鬼気迫る表情に、飛頭蛮(♀)は恐怖した。

「ひぃぃぃぃ! わらわが悪かった! もう食ったりせんから! 放してたもれ!」
「いえ、ぜひあなたには私を食って頂きたい! 性的な意味で!」
「ひぃぃぃぃ! 話が通じん!」

 ガシッ!

 男の背後から何者かが彼を羽交い絞めにする。振り向くと首のない身体が男にしがみ付いていた。

 首のない着物姿の女性。

 普通なら気絶するほどの恐怖であるが男は違った。筋金入りのDTにそんなのは通じない。

「おおおおお、おぱぱぱ、おぱぱぱーいが俺の背中にぃぃ! あたたたた、あたってるぅぅぅ!」
「なんで喜んどるんじゃー!」

 飛頭蛮(♀)は何とかして、自分の頭を掴んでいる男の腕を振りほどこうとしていた。だが男は飛頭蛮(♀)のボディによる羽交い絞めを愛の抱擁と理解した。

 なぜなら、男にとって女性から自分に抱き着いてくるなんて状況は、それ以外に考えられなかったからである。

「ハニー、俺を受け入れてくれてありがとう。一生、君に愛を捧げるよ」
「こいつ! マジで話が通じんのじゃぁ! わらわは妖怪! 人を喰らう恐ろしい妖怪じゃぞ! 恐れ慄かんかー!」

「俺は怖い。君の唇にこれ以上、俺の心が奪われるのが怖い。もう……我慢ができそうにない……」

 むちゅっ。

 男に唇を奪われた瞬間。飛頭蛮(♀)の脳裏にまだ人間だったころの記憶が呼び起された。かつて婚約者であった大名の息子の裏切りで、歌会の席で無実の罪で断罪され、婚約破棄で、悪役小町として命を落とした自分を思い出した。

 それでも恋慕の情が捨てきれず、妖怪ろくろ首となって大名の息子のところへ訪れた女は、そこで自分がずっと親友だと思っていた私塾の女生徒が寝所にいるところを見てしまったことを思い出した。

 ろくろ首となった自分の姿を見て、恐怖に震える二人の姿を思い出した。それ以降、二百二十年の間、彼女の姿を見た全ての人間が恐ろしさに顔を歪めた。

 だが……、

 この男は違う。私を見ても一切恐れることなく、それどころかこれほどまでに熱く激しく私を求めてくる。

 トゥンク!(男の後ろにある飛頭蛮(♀)の胸の音)

 この男なら……。

 飛頭蛮(♀)の乙女心が二百二十年ぶりに胸が高まった。

 男の熱いベーゼが、いつのまにか二人のベーゼに変わっていた。

 ちなみに絵面は超ホラーである。

 そして、いつの間にか男を羽交い絞めにしていた腕が下がり、優しく男の胸を抱きしめていた。女の気持ちの変化を感じ取ったのか、飛頭蛮(♀)の頭を押さえる男の腕から力が抜け、優しいホールドに変わる。

 でも、やっぱり絵面は怖い。

 端から見たら恐怖でしかないが、二人の間には強い愛の絆が結ばれていた。

 そして、まぁ、あとはなるようになって、

 結局、男は魔法使いになることはなかった。

 一応、フォローしておくと飛頭蛮(♀)の頭は着脱自在である。

 なのでそこは良い感じで妄想して大丈夫である。

 そして――

 間もなく二人は出来ちゃった結婚し、幸せな家庭を築いて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。



~ おしまい ~
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