帝国妖異対策局

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第4話 行方不明の言い訳 ~ちょっと異世界に行ってました ~

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「真九郎! あんたここ数日どこ行ってたのよ! 連絡しても繋がらないし、どこ行ってたのよ!」
「ご、ごめんなさいですん……」

 ツインテールの少女を前にして、彼女より大きな体の鬼娘が縮こまっていた。帝国妖異対策局に不破寺真九郎が所属するようになって以降、こうした風景は日常の一部になっている。

 二人にそっとお茶を差し出しながら、帝国撫子型アンドロイドのハチは平和な日常に安堵を感じている自分に少々驚いていた。

「うちのお母さんが、あんたがご飯食べに来ないなんて只事じゃないって、すごく心配してただんだからね!」
「ごめんなさいですん! ママさんにも、ごめんなさいですん!」

 この鬼娘が2~3日くらい行方不明になることは、これまでにも何回かあった。そしてその度に同じ言い訳を局長にして、そして怒られるのだ。

「異世界に飛ばされていたのですん……」
「はぁ!? 異世界って帝都の外ってこと?」
「違いますですん! ホント! ホントにホントの異世界ですん!」
「あんたねぇ! 言い訳するにしても……」
「まぁまぁ、まぁまぁ……」

 ブチキレそうになる局長を宥めに入ったのは、長い青髪の美少女、三浦糸按。現在は高校生だが三浦神社の神主であり、帝国妖異対策局の最大の支援者でもある。

「真ちゃんも、しっかり反省してるのですし、この辺でよろしいのでは?」
「……わかったわ」

 糸按の言葉ということもあって、局長はそのまま引き下がることにしたようだったが、まだまだ怒り足りないようだった。

「局長、わたくしは真九郎様のおっしゃっていることを信じます」

 アンドロイドのハチの言葉に局長は目を丸くして驚いていた。真九郎と言えば目に涙を浮かべながらハチを仰ぐように見ている。

「ハチ、あんた何言って……そう、わかったわ。じゃ、この話はこれで御終い」

 ハチのフォローのおかげで局長の怒りがほぼ鎮火されたようだった。

 実は、不破寺真九郎のこの奇妙な行方不明騒動については、ハチには思うところがある。それは彼女の人工の脳が参照する情報で判断したことではない。

 彼女の体内にあるコア。世界で8体しか持っていない、この世界にアンドロイド技術をもたらしたコンパクエンジンが真九郎の言葉を真実だと訴えかけているのだ。

 そのコアから伝わってくる言葉――

「その世界でわたしも彼女と一緒に戦っていたじゃない」

 アンドロイドの目を以て不破寺真九郎を観察した結果からも、その事実の確かさを後押しするものがあった。

 行方不明の前後で、真九郎のボディヘルスチェックの結果に明らかに違いが出ているのだ。それはこの数日間のうちに、まるで数年の年を経たかのような変化だった。

 そのことについてハチは、局長が本当に落ち着いてから報告することにした。 
 


~ 真九郎 ~

「うぅ、くやしいですん。本当に異世界に飛ばされていたのに……」

 代々、妖異退治を生業にしてきた不破寺神社の娘は落ち込んでいた。

 異世界の女神とやらの願いに応じて魔物を倒して以降、なんだか良いように使われている気がする。

 ここ最近は特に酷い。異世界での魔王退治の二連発。

 ゴンドワルナという大陸を侵攻していた魔王を倒したときは2年も掛った。ようやっと帰ってきたと思ったら、こちらの時間は2日しかたってなくて、しかも女神のフォローもなく、めちゃくちゃ局長に叱られた。

 その次は、なんと帝国海軍と一緒に異世界に飛ばされ、その世界を救った。この時も帰ってきた後に女神のフォローはなし。またまた局長にめちゃくちゃ叱られた。

 帝国海軍の皆さんにフォローをお願いしても箝口令が出されているので、彼らも話せないという。一応、慰めてはくれたが。

「こんなの理不尽ですん!」

 と思っても、その不満をぶつける先がない。今度、女神が来たらぶつけてやる!と真九郎は固く心に誓うのだった。

 とはいえ、妖異を倒す性分が血の中に流れ続けている不破寺家である。また女神に必死の懇願をされたら、しぶしぶでも異世界に行ってしまう自分であることも真九郎は理解していた。

「はぁ……。これは何としても局長に異世界のことを信じてもらわないと、私の心が持ちませんですん」

 この日以降、真九郎は局長に異世界転生アニメやマンガやWeb小説を勧め、同人誌即売会に局長を引き摺って、ついには日々の報告書にオリジナルの異世界転生小説を連載するようになった。

「わ、分かったわ真九郎、もう分かったから、とにかく日報に連載小説を書くのはやめて……」
「異世界のことをお分かりいただけましたかん! よかったですん!」

 こうして、ついに局長は折れたのだった。もちろん、真九郎が異世界に行ったということを信じたのではない。局長は、真九郎にこの話題で触れてはいけないことを学んだのだ。

「でも……異世界恋愛ってちょっといいかもね」

 自分でも気が付かないうちに、異世界恋愛悪役令嬢モノにドハマリしていく局長だった。

~ おわり ~ 
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