追放されたおっさん、辺境ダンジョンで【家庭菜園】始めたら、伝説の植物が育ちすぎて

帝国妖異対策局

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聖女と女騎士

第37話 癒えぬ呪いの痕

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 ブリジットが倒れているセシリアに駆け寄る。

「セシリア様っ!!」 

「しっかりしてください! セシリア様! 私です、ブリジットです!」 
 
 彼女は震える手でセシリアの肩を抱き、必死に呼びかける。

 セシリアはぐったりとして反応がない。
 
 ただ、浅く速い呼吸を繰り返しているだけだ。その顔の右半分を覆う赤黒い呪いの痕は、間近で見るとさらに痛々しく、禍々しい気配を放っていた。

 追いついたアランも、セシリアの様子を見て眉を寄せる。極度の疲労と、そして明らかに異常な呪い。放っておけば命に関わるのは間違いない。

「レン、なんとかならないのか?」 

 アランが隣に立つレン(プライマリボディ)に尋ねる。

「バイタル極めて不安定。すみやかな保護と治療が必要です。このままでは生命維持が困難になります」

 レンは無表情のまま、しかし的確な状況を分析する。

「分かった。とにかく屋敷に運ぶぞ! ブリジットさん、手伝ってくれ!」 

「は、はい!」 

 ブリジットは涙を拭い、アランと共にセシリアを抱え上げようとする。しかし、消耗しきった少女の体は、見た目以上に重く感じられた。

「了解。対象を邸内の客室に搬送します」

 レンが静かに言うと、アランたちの足もとに黒い空間が現われる。体がふわりと宙に浮いたと思ったら、周囲が真っ暗で何も見えなくなった。

「うおっ!?」 
「これは……!?」 

 アランもブリジットも驚く。風のような、金属の擦れるかのような、何とも表現しがたい音が耳に響く。

「 30 秒で到着します」
 
「レ、レン殿!? これはいったい!?」 

 そう狼狽えるブリジットに対して、アランは平静を保っていた。

 何かとポンコツ振りが目立つレンだが、それはアランたちとのコミュニ―ケーションにおける部分に限ってのことで、仕事に関しては完璧だった。やり過ぎなことはあったが……。

 なので、実際のところ、アランはレンのやることだからという諦めと、その仕事ぶりに対する信用が半々だった。

 レンの言う通り――幸いなことに――しばらくすると、アランたちは邸宅の客間にいた。

 そのままアランはセシリアを客室のベッドに寝かせる。

 しばらくするとセシリアが意識を取り戻した。

「ここは……」

「セシリア様! よくご無事で!」 

 ブリジットがセシリアの手を握る。
 
「……ブリジット!? もしかして、これは夢なの? もしかして、私はラーナリアの楽園に……」

「夢ではありません! 荒野に倒れていた貴方を発見し、この屋敷へお運びしたのです!」 

 セシリアがゆっくり周囲を見渡し、アランの存在に気がついた。

「ここは俺の邸宅だ、聖女様。安全な場所だから何も心配することはない」

「そう……ですか。助けていただいてありがとうございます」

「何か食べた方がいいと思うんだが食欲はあるか? スープなら飲めるか?」 

 セシリアが小さく頷くのを見て、アランは厨房へ向かった。

 その背後では、ブリジットとセシリアが改めてお互いの無事を喜びあっていた。

 厨房についたアランは、滋養があり、回復効果が高い野菜を選び、手早くスープを作り始める。

 出来上がったスープを持って戻ると、レンがセシリアの上体をそっと起こし、ブリジットがスプーンで少しずつセシリアの口元へと運んだ。

 スープを飲むうちに、セシリアの顔色が少しだけ良くなり、呼吸も幾分か穏やかになってきたように見える。

「よかった……落ち着かれたようですね……」

 ブリジットが安堵の表情を浮かべる。
 
 アランの野菜スープは、今回も効果を発揮しているように見えた。
 
 だが――。

 アランは気づいていた。そしておそらく、ブリジットも。

 セシリアの顔の右半分を覆う、忌まわしい呪いの痕。それは、アランの規格外の野菜スープを飲んでも、全く変化を見せていなかったのだ。

 ピュアルートは、ブリジットを蝕んでいた魔神級の呪詛の進行を止め、急速に浄化していった。

 スープにはピュアルートが入っているにも関わらず、セシリアの顔のそれは、色も形も、禍々しい気配も、飲む前と何一つ変わっていない。

 最近は、自分の野菜の効果に自信を持っていたアランは焦りを覚える。

 ブリジットも、セシリアの顔の傷が一向に癒える気配がないことに気づき、顔を曇らせていた。

 彼女は聖女の力を知っている。だからこそ不安だった。セシリア自身が持つ「奇跡の治癒魔法」ですら、この呪いに効果がなかったのだ。

 聖女セシリアを襲った呪いは、アランたちの想像を超えるほどに根深く、そして悪質であるようだった。

 アランの規格外野菜という「希望」が壁にぶつかろうとしていた。

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